連合が、来年の春闘で8年ぶりにベースアップを要求する。彼らによれば「賃上げこそ最大の景気対策」だそうだ。月曜には、麻生首相が財界に賃上げを要請した。このバックには経産省がいるようだが、「100年に1度」の不況のさなかに賃上げを求めるセンスは救いがたい。彼らの主張は正しいだろうか。まずミクロ経済学では、次のように教わる:
(A)需要と供給が一致しているとき価格を上げると、需要が減って超過供給が発生する
ここで賃金は労働サービスの価格であり、失業は労働の超過供給だから、それを集計したマクロでも
(B)賃金を上げると、労働需要が減って失業が発生する
という結論になるはずだ。ところが労組や麻生首相(経産省)は、その逆にこう主張する:
(B')賃金を上げると、所得が上がって需要が増える
これはケインズのいう「乗数効果」だが、明らかに経済学の一般論(A)と矛盾する。これをどう解決するかが難問で、「新古典派総合」では、新古典派理論(A)は完全雇用の場合で、不完全雇用の場合はケインズ理論(B')が成り立つと教える。しかし不完全雇用(不均衡)状態で新古典派理論が成り立たないのなら、価格によって均衡が成立するという命題も成り立たないので、これは論理的におかしい。もともと需要とか供給とかいうのはマクロの概念なので、要するに同じマクロ経済について矛盾した理論を教えているのだ。
(B')が成り立つのは、どういう場合だろうか。賃金を上げたとき所得が乗数倍ふえるのは、相対価格が変化せず労働需要が減らないときに限られる。この条件は、大企業のように労使交渉で賃金が決まる場合には、企業はベアに応じて労働者を解雇できないので、短期的には成り立つ。しかし賃金コストが増加すると、やがて企業はクビにしやすい非正規労働者を削減するだろう。失業した労働者は所得がなくなるので、消費も減る。
つまり乗数効果(B')は、価格や賃金の硬直性のもとでの数量調整の結果なのである。これに対して(A)のような新古典派の理論は、価格調整の理論である。ケインズは自分の理論を「一般理論」と誇称したが、これは逆で、一般には(A)が成り立つが、価格調整より数量調整の速い短期では(B')が成り立つ。しかし普通は、市場にまかせれば長期の均衡(A)に収斂するはずだから、政府が介入する必要はない。
短期の不均衡に政府が介入する必要があるのは、コーディネーションの失敗によって短期の局所解がナッシュ均衡になっている場合だ。今のアメリカのように価格メカニズムが機能しない場合には、政府が財政出動によってショックを与えて定常成長経路に戻す必要もあるかもしれないが、日本のような通常の不況ではそういう非常手段をとる必要はなく、とっても効果がない。
それに労組の組織率は18%にすぎないので、春闘でベアをやったところで、もともと恵まれているノンワーキング・リッチがさらにリッチになって、格差が広がるだけだ。サマーズも指摘するように、組織労働者を過剰保護すると非正規労働者にしわ寄せされ、自然失業率は上がる。そもそも業界全体で横並びの賃上げをする春闘という賃金カルテルが、まだ残っているのが異常なのだ。まぁ実態は形骸化し、経営者も連合の要求なんか相手にしないから効果はないだろうが。
(A)需要と供給が一致しているとき価格を上げると、需要が減って超過供給が発生する
ここで賃金は労働サービスの価格であり、失業は労働の超過供給だから、それを集計したマクロでも
(B)賃金を上げると、労働需要が減って失業が発生する
という結論になるはずだ。ところが労組や麻生首相(経産省)は、その逆にこう主張する:
(B')賃金を上げると、所得が上がって需要が増える
これはケインズのいう「乗数効果」だが、明らかに経済学の一般論(A)と矛盾する。これをどう解決するかが難問で、「新古典派総合」では、新古典派理論(A)は完全雇用の場合で、不完全雇用の場合はケインズ理論(B')が成り立つと教える。しかし不完全雇用(不均衡)状態で新古典派理論が成り立たないのなら、価格によって均衡が成立するという命題も成り立たないので、これは論理的におかしい。もともと需要とか供給とかいうのはマクロの概念なので、要するに同じマクロ経済について矛盾した理論を教えているのだ。
(B')が成り立つのは、どういう場合だろうか。賃金を上げたとき所得が乗数倍ふえるのは、相対価格が変化せず労働需要が減らないときに限られる。この条件は、大企業のように労使交渉で賃金が決まる場合には、企業はベアに応じて労働者を解雇できないので、短期的には成り立つ。しかし賃金コストが増加すると、やがて企業はクビにしやすい非正規労働者を削減するだろう。失業した労働者は所得がなくなるので、消費も減る。
つまり乗数効果(B')は、価格や賃金の硬直性のもとでの数量調整の結果なのである。これに対して(A)のような新古典派の理論は、価格調整の理論である。ケインズは自分の理論を「一般理論」と誇称したが、これは逆で、一般には(A)が成り立つが、価格調整より数量調整の速い短期では(B')が成り立つ。しかし普通は、市場にまかせれば長期の均衡(A)に収斂するはずだから、政府が介入する必要はない。
短期の不均衡に政府が介入する必要があるのは、コーディネーションの失敗によって短期の局所解がナッシュ均衡になっている場合だ。今のアメリカのように価格メカニズムが機能しない場合には、政府が財政出動によってショックを与えて定常成長経路に戻す必要もあるかもしれないが、日本のような通常の不況ではそういう非常手段をとる必要はなく、とっても効果がない。
それに労組の組織率は18%にすぎないので、春闘でベアをやったところで、もともと恵まれているノンワーキング・リッチがさらにリッチになって、格差が広がるだけだ。サマーズも指摘するように、組織労働者を過剰保護すると非正規労働者にしわ寄せされ、自然失業率は上がる。そもそも業界全体で横並びの賃上げをする春闘という賃金カルテルが、まだ残っているのが異常なのだ。まぁ実態は形骸化し、経営者も連合の要求なんか相手にしないから効果はないだろうが。


