きのうの短い記事が、意外に論議を呼んでいるようだ。40年前の経済学の常識が、まだ一般に理解されていないのは困ったものだが、サマーズがいっているのは長期の労働供給、つまり自然失業率の原因である。短期的には労働需要の変動が失業に影響するのは当たり前だが、それを政府が完全にコントロールすることはできない(cf. Mankiw)。長期の失業率は労働市場の硬直性で決まるので、政府の介入は有害である。

図のように、短期の失業率はケインズ的な財政政策でAからBに下がるが、それはインフレによって実質賃金を下げているだけなので、労働者がインフレ予想を織り込むと労働供給が減って失業率はCに戻り、長期的には自然失業率(NAIRU)で労働市場が均衡する。つまり財政政策というのは労働者を一時的にだましているので、長期的には失業は自然率に戻り、インフレだけが残る。サマーズもいうように、労組の力が強くなると労働市場が硬直的になって自然失業率が上がる。

これはフリードマンが有名な1968年の論文で明らかにしたことで、現在は(保守もリベラルも問わず)経済学の常識である。ところが日本では「マクロ経済学」と称して、ミクロ経済学と矛盾する奇妙な理論がいまだに教えられている。特に官僚やジャーナリストには、上にリンクを張った論文を読んでほしい。これは経済学の論文として最高傑作の一つとされ、数式はまったくないので論理的思考力があれば理解できる。