Economist誌が、FRBに非正統的な金融政策を推奨している。これは日本が経済政策で世界に誇れる、数少ない分野だ。なにしろ10年近く、論争が続いているからだ(最近は「リフレ派」は姿を消したが)。本書は「失われた15年」との関係でこうした政策を整理しているが、今回の金融危機についての分析を加えて英訳すれば、各国の政策担当者に重宝されるだろう。植田和男氏によれば、非正統的な金融政策には次の3種類がある:
  1. インフレ目標(人為的インフレ)
  2. リスク資産の大量購入
  3. 量的緩和
このうち日銀が行なったのは主として3だったが、あまり効果がなかった。日本の論争で最大の焦点だった1は、「時間軸政策」として一定の効果があったが、大したことはなかった。これはクルーグマンも撤回し、今回はまったく議論になっていない。本書も批判するように「日銀が無責任になることを約束する」という彼の政策提言は、論理的に成り立たないからだ。実際に激しいインフレが起こったら、日銀がそれを放置するはずがないので、クルーグマン的インフレ目標はsubgame perfectな戦略ではなく、市場に信用されない。それは彼も、最近のコラムで認めている:
I and others tried to make for Japan in the 90s and are trying to make again now: creating inflation is easy if you’re an irresponsible country. It may not be easy at all if you aren’t. [...] No matter how much Japan increases the monetary base now, expectations of future money supplies won’t move if people believe that the Bank of Japan will move to stabilize the price level as soon as the economy recovers.
かつてインフレ目標を日銀に強く求めたバーナンキも、今回はまったくそれを口に出さない。その代わりFRBは急速な量的緩和を行ない、GSEの保有するMBSを5000億ドルまで買うことを約束した。これは史上初めてFRBが消費者に対する直接の貸し手になる政策であり、上の2に相当する。Economist誌はこの政策を高く評価しているが、日本の経験からいうと、その効果は限定的だ。日銀は2003年にMBSなどのリスク資産購入に踏み切ったが、ほとんど効果がなかった。今回はGSEの破綻を避ける意味がメインだろう。

こうした政策が効果を発揮するには、中央銀行や財政当局が大規模に介入してGSEを乗っ取り、債券市場を買い占めるぐらいやる必要があるが、そういう異常な政策は意図せざる結果をもたらすリスクが大きい。Economist誌も懸念するように、アメリカのように財政赤字の大きい国でそれをさらにふくらませると、海外からの投資が引き上げられてドルが暴落するおそれが強い。

ただ、かつてバーナンキ自身が日銀に「ケチャップでも何でもいいから無限に買え」と提言したので、こういう政策をとる可能性はある。上の3つの政策のうち、2だけが日銀があまり大規模にやらなかった政策なので、理論的には成功する可能性はある。FRBがケチャップを買うのは見たくないが・・・