The Origin of Financial Crises: Central Banks, Credit Bubbles, and the Efficient Market Fallacy (Vintage)中央銀行が資産価格をコントロールすべきかどうかというのは、ながく論争になっているテーマである。どこの国でも中央銀行の最大の使命は「物価の安定」であり、「バブルの防止」という目的はない。資産価格の上昇そのものに問題はなく、損失をこうむる人は自己責任だ。ただ資産価格が極端に低下した場合には、中央銀行が介入して利下げなどの手段によって安定化する必要がある。

・・・というのが標準的な考え方だが、本書はこうした「非対称な金融政策」は根本的に誤っていると批判する。この政策は、通常は資産価格はファンダメンタルズを織り込んでいると想定する効率的市場仮説(EMH)にもとづいているが、最近の状況はこの仮説の明白な反証だ。財市場では価格の上昇によって需要は減るが、資産市場では価格が上がると需要が増えるself-reinforcingな効果があるので、不安定化する傾向が内在的にあるのだ。

EMHが成り立たないというのは、最近は教科書にも書かれるようになったので大して目新しくない。それに代わる理論として著者が推奨するHyman Minskyの金融不安定性仮説は最近、金融関係者に注目されているが、これは簡単にいうとファイナンスには次の3種類があるというものだ:
  1. ヘッジ・ファイナンス
  2. 投機的ファイナンス
  3. ねずみ講(Ponzi)ファイナンス
1はEMHが想定している取引で、市場で行なわれているのがこれだけなら、市場は均衡に収束して安定する。2も、効率的な投機であれば安定化する(愚かな投資家は淘汰される)が、市場全体が一つの方向に動く場合は不安定化する。3は資産価格が維持できないことを承知の上で、他人に損を押しつけて売り抜けようとするもので、行動ファイナンスでも指摘されている。金融市場が発達するにつれて2や3の取引が増え、資産市場は不安定化するというのがミンスキーの仮説だ。

しかしこの仮説は、主流派の金融理論のように洗練されたものではなく、計量データに裏づけられてもいない。本書も定性的な話ばかりで、EMHの系統的な批判にはなっていないが、中央銀行が資産価格を目的関数に入れるべきだという提言は傾聴に値する。