雑誌から「今年の収穫」というアンケートが送られてくる季節になった。今年ブログで紹介した本をチェックしてみて、今年の後半は推薦できる日本語の本がほとんどないことに気づいた。たぶんアメリカ発の金融危機のスケールが大きすぎ、かつそれを正確に分析した本がまだ出ていないためだと思う。そこで、とりあえず今の段階で、現状を理解するのに役立つと思われる本をリストアップしてみた:
  1. The Black Swan
  2. 市場リスク 暴落は必然か
  3. When Markets Collide
  4. The Age of Turbulence
  5. 現代の金融政策
  6. Essays on the Great Depression
  7. The Great Contraction
  8. すべての経済はバブルに通じる
  9. 資本主義は嫌いですか
  10. なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか
  11. Bad Money
  12. Fixing Global Finance
  13. Globalizing Capital
  14. Subprime Mortgage Credit Derivatives
  15. Subprime Solution
1は説明する必要はないだろう。危機の本質を、それが起こる前に的確に解明した本というのは珍しい。2も証券化のリスクを投資銀行の「ロケット・エンジニア」が分析したもので、特に金融商品をloose couplingにすべきだという提言は、いま進められている金融制度改革の方向を先取りしている。3は、今回の危機について今のところベストの解説書。翻訳が待たれる。

4は危機の「犯人」の回顧録。新版につけられた付録で「誰にも予測できなかった」と言い訳をしている(訳本は付録だけバラ売り)。5は日銀総裁による90年代の危機の総括を含む。6はFRB議長による大恐慌論で、7はその元祖となった古典。ただしSchwartzもいうように、大恐慌の最大の原因はFRBの「清算主義」的な金融政策だったので、あまり今回の危機の参考にはならない。

8と9は、今回の騒動について日本人の書いた数少ない読むに耐える本。10はこれまでに訳された中ではもっとも情報が新しいが、著者が経済学を理解していない。11はアメリカ社会のルポルタージュ。今となってはあまり目新しいことは書いてないが、投資銀行がいかにあくどいビジネスをやったかというエピソードはおもしろい。12はアメリカの消費バブルが問題の根源であることを多くのデータで分析しているが、少し古いので金融商品の話はほとんどない。

13は国際金融の歴史についての本だが、大恐慌の拡大の原因が金本位制にあった(したがって今回は同様の事態は起きない)ことを明らかにした。14は金融商品についての専門書だが、なぜサブプライム証券が問題を引き起こしたかをくわしく分析している。15は、今回の騒動について経済学者の書いた今のところ唯一の本だが、内容がピンボケ。

ついでに「読んではいけない」本もあげておこう。こっちは山ほどあるが、特にひどいのは次の3冊。岩波の経済書はマル経が書いているので、すべて読んではいけない本だと思ったほうがいい。ただ竹森俊平氏のいうように、21世紀の歴史が「リーマン・ブラザーズ以前と以後」で章を改めるとすれば、以上の本はいずれも金融危機の「前史」でしかない。特に日本語で問題の全体像を系統的に解説した本が出ていないため、必要以上に不安をあおるセンセーショナルな報道が多い。そこでこの空白を埋めるべく、池尾和人氏と私の共著で、来年の初めに金融危機の本を日経BP社から出す予定である。