Bloombergに掲載されたRogoffのインタビューが大きな反響を呼んでいる。ハーバード大学で金融理論の第一人者であり、元IMF理事としては大胆な発言だ:
アメリカ経済は、まだ最悪の状況を脱していない。すでに5000億ドルが失われたが、これはまだ序幕だ。ファニー・メイとフレディー・マックはすでに破綻しているので、ただちに国有化し、株式はすべて没収すべきだ。金融機関の破綻も、ベア・スターンズぐらいではすまない。バブルで大もうけした巨大銀行が、その崩壊によってもうけを吐き出して消えることは、金融システム正常化の過程では避けられないし、避けるべきではない。
「日本版サブプライム」に同時進行でつきあった私の経験からいうと、つねにもっとも悲観的な予想が当たっていた。1990年初めに、当時もっとも悲観派といわれていたエコノミストが「日本の金融危機は、最悪の場合、アメリカのS&L(16兆円)に近い規模になるかもしれない」と言っていたのを覚えている。実際にはその6倍以上になったわけだが、それを予想した人はいなかった。

本書の著者も『根拠なき熱狂』でITバブル崩壊を予想した金融理論の権威だが、サブプライム危機の発生メカニズムについての分析は、もっぱら不動産市場と心理的要因に帰せられており、物足りない。処方箋も、短期的には銀行を救済すべきだという意見だ。ただ長期的には、情報開示の範囲を広げ、消費者向けにもリスクをヘッジする金融商品を開発し、「ファイナンスを民主化」すべきだという。

著者は金融工学が今回の危機の答になると考えているようだが、私はそれはむしろ問題を作り出したと思う。今回の危機の特徴は、アメリカの不動産市場のローカルな危機がグローバルな底なしの危機に拡大したことだが、この原因は証券化のシステムやその規制に致命的なバグがあったためだ、というのが大方のプロの意見だ。もっとも今回の危機の全容が解明されるには、あと5年ぐらいかかるかもしれない。本書は、今のところほぼ唯一の、経済学者の書いた本として一読には値する。

追記:同様の悲観論者として知られているのはNouriel Roubiniだが、彼とRogoffの意見には共通点がある。米GDPの7%に及ぶ巨額の経常赤字は、いずれドルの暴落によって「水準訂正」されるだろうという予測だ。それがいつかはわからないが、今だとすれば最悪だ。

追記2:Economist誌は、ファニー・フレディが国有化される見通しで、Lehmanも危ないと報じた。以前の記事でも書いたように、Lehmanのレバレッジは過大なので、これは十分ありうる。Rogoffの話は、IMFの内部情報だと思われるので、早ければ今週中に何か動きがあるかもしれない。