日本のGDPの速報値が年率-2.4%と大きく落ち込んだことに、海外のメディアも注目している。例によって冷たいのはEconomist誌で、「サブプライムの影響が最小だった日本の成長率がこれだけ落ちたのは、これまで円安のおかげで輸出産業に支えられてきた経済のメッキがはげたのだ」と、日本が長期停滞に入ることを示唆している。

その底流には、大反響を呼んだ"JAPAIN"特集で彼らが指摘したように、ただでさえ景気後退期で保守的になっている人々の行動を政府が規制によってさらに保守的にしている「官製不況」がある。たとえば貸金業法の規制強化の影響で、この1年で貸金業者は30%廃業し、消費者金融の融資残高は20%(1.5兆円)も減った。不況のさなかに政府がクレジット・クランチを促進しているのだ。

それよりも本質的な影響は、シティグループが日本の消費者金融から撤退するとき、いみじくも言ったように、ルールのない国でビジネスはできないということだ。債務者も同意した合法的な融資に対して、あとから「だまされた」と訴訟を起こし、「過払い金利の返還」を最高裁が命じたことは、実質的に金利を過去に遡及して減免する徳政令である。それは短期的には債務者を救済しても、長期的には(中南米やロシアをみればわかるように)金融市場を致命的に混乱させ、投資を減退させて経済に大打撃を与える。

ハイエクがケインズ的な「景気対策」に反対した最大の理由は、失業者に政府の資金をばらまく裁量的な政策が経済のルールを混乱させ、「赤字になったら政治家に公共事業を頼めばよい」といった非生産的なロビイングを誘発するからだ。90年代の日本の長期不況の最大の原因も、大規模な粉飾決算とバラマキ公共事業などによって、非効率な企業は退場するという資本主義のルールが崩壊したことにある。

「日雇い派遣」が問題になったら禁止し、漁師がデモをしたら燃費を税金で補填する、といったtime-inconsistentな政策は、個別にはいいことをしているようにみえても、全体としては市場のルールを破壊し、日本経済の停滞をさらに深刻化させるだろう。そして「麻生政権」は、こうした徳政令路線に舵を切ろうとしているようにみえる。