最近の経済物理学やBlack Swanなどの元祖は、マンデルブロである。彼が『フラクタル幾何学』を発表したのは1982年。その理論は、1970年代にほぼ完成していた。これは初期には、もっぱらコンピュータ・グラフィックスで有名になったが、彼がフラクタルを発見したのは株価の動きからであり、「あなたは自分の職業を何だと考えているか」という質問には「経済学者」と答えている。

その意味で本書は、20世紀でもっとも偉大な経済学者の業績を、数式なしで一般向けにまとめたものだ。原著は2004年なので、最近の市場の動きを分析する役には立たないが、30年前にここまで高度な研究を完成していたのは驚くべきことだ。あまりにも完成度が高すぎ、数学的にむずかしいため、研究の後継者がいなかったが、最近ようやく彼を継承する経済理論が出てきた(e.g. Aoki-Yoshikawa)。

本書で紹介されている理論は、物理学では普通に使われているものだ。経済学だけが、いまだに300年前のニュートンの理論を使っているのである。マンデルブロの理論を使いこなすにはコンピュータが必要なので、今までの紙と鉛筆の数学しか知らない経済学者では無理で、世代交代しないとだめだろう。やはり科学は、葬式ごとに進歩するのである。