民主党はきのう、「子どもが安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案」を了承し、今国会に提出する方針を決めた。民主党の法案なんてだれも関心を持たないだろうが、これは先日の自民党のネット規制法案とほとんど同じ内容だ。つまり民主党案が出ると自民党案も出され、両党の協議でネット規制法が、今国会で成立する可能性が高い。
その自民党案は、私が入手した「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案(未定稿)」によれば、次のようなものだ(条文は一部略):
もっとも問題なのは、第9・10条の行政処分と第51条の罰則である。携帯電話では、すでにフィルタリングが業界の自主規制で行なわれており、携帯電話は寡占市場なので、あえて公権力が介入する必要があるとは思われない。逆にインターネットでは、ISPは2000以上あり、そのすべてを監視し、是正命令を出すのは不可能だ。「みせしめ」的に特定のISPが摘発されるおそれが強い。
主務大臣等という規定も曲者である。この法案では、青少年健全育成推進委員会・総務相・経産相が主務大臣に該当することになっているが、このように特定の業界に対する「業法」として立法することは、情報通信産業に一般のメディアにはないハンディキャップを負わせる結果になる。また、この法案を書いたのは警察庁だといわれており、実際には「等」のところに警察が入る可能性がある。
このような罰則つきの法律が成立すると、個人情報保護法のように過剰コンプライアンスが起こり、怪しい情報をISPが予防的に削除するなどの萎縮効果が大きい(自民党もそれをねらっているのだろう)。ただ紛争処理機関の設置は評価できる。こうしたADRによって、当事者間で司法的に解決するのが本筋だ。
他方、民主党案は、事務局長の高井美穂氏の話では、青少年有害情報の定義を「(1)著しく性的感情を刺激する情報、(2)著しく残虐性を助長する情報、(3)著しく自殺又は犯罪を誘発する情報、(4)特定の児童に対するいじめに当たる情報であって当該児童に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの」とするなど、文言まで自民党案とそっくりだ。自民党の推進役である高市早苗氏とすり合わせしているのだろう。
総務省も「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」で、第三者機関の設置を検討している。こちらは公権力がどの程度関与するかについてはまだはっきりしないが、今国会に法案を提出するというのは同じだ。いずれにせよ、今国会で何らかの形でネット規制法案が成立する可能性が高い。
ISPは、携帯フィルタリングをめぐる混乱を対岸の火事と思っているかもしれないが、このまま放置すると、今度はもっときびしい罰則つきの法律が、インターネット全体について成立するおそれが強い。業界が自主的に青少年保護の基準をつくって対応すると同時に、少なくとも自民党案の罰則規定は外すよう一致して行動を起すべきだ。
5年前の個人情報保護法のときは、民主党が自民党より規制の強い野党案を出した。このときも事務方の経産省は規制に慎重だったのに、日弁連が 自己情報コントロール権なるものを宣言して規制強化の旗を振り、新聞協会は「自分たちだけは適用除外にしろ」というキャンペーンを張ったため、インターネットだけが規制対象になった。あの失敗を繰り返してはならない。
追記:長くなるので省いた第3~8条と12・13条を加えた。フィルタリングだけでなく、第3条の2で削除義務が定められている。第9・10条の行政処分は、これらの義務に反した場合の罰則である。
追記2:自民党案の骨子をアップロードした。有害情報の定義は、この記事では一部省略したが、法案も骨子と同じだ。
訂正:「雑則」の後なので見落としたが、第51条に懲役・罰金の規定がある。本文を修正した。
その自民党案は、私が入手した「青少年の健全な育成のためのインターネットの利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案(未定稿)」によれば、次のようなものだ(条文は一部略):
第2条の2(青少年有害情報の定義) この法律において「青少年有害情報」とは、次のいずれかの情報であって、青少年健全育成推進委員会規則で定める基準に該当するものをいう。まず「青少年有害情報」の定義が広範囲に及び、「~を誘発するもの」とか「~おそれがあるもの」というように「青少年健全育成推進委員会」の裁量によってどうにでも解釈できる曖昧な表現が多い。第3条(ISPの義務) 特定電気通信役務提供者は、青少年でない旨の証明をした者でなければ青少年有害情報の閲覧ができないようにする措置、青少年有害情報フィルタリングソフトウェアなどの措置を講じなければならない。
- 青少年に対し性に関する価値観の形成に著しく悪影響を及ぼすもの
- 青少年に対し著しく残虐性を助長するもの
- 青少年に対し著しく犯罪、自殺又は売春等を誘発するもの
- 青少年に対し著しく自らの心身の健康を害する行為を誘発するもの
- 青少年に対するいじめに当たる情報であって、当該青少年に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの
- 青少年の非行又は児童買春等の犯罪を著しく誘発するもの
2 特定電気通信役務提供者は、青少年有害情報の発信が行なわれたことを知ったときは、閲覧がなされないよう措置を講じなければならない。
第5条(携帯キャリアの義務) 携帯電話インターネット接続役務提供者は、フィルタリングサービスの利用を条件としてこれを提供しなければならない。
第8条(メーカーの義務) インターネット接続機器製造事業者は、フィルタリングソフトウェアを組み込んだ上で当該機器を販売するよう努めなければならない。
第9条(是正命令) 主務大臣等は、インターネット接続役務提供事業者に対し、是正命令を出すことができる。
第10条(立ち入り検査) 主務大臣等は、インターネット接続役務提供事業者に対し、その営業所に立ち入り、業務の状況又は帳簿、書類その他の物件を検査させることができる。
第12条(ネットカフェの義務) インターネットに接続した通信端末機器を不特定多数の者に使用させる事業者は、フィルタリング等[略]の措置を講じなければならない。
第13条(自治体の規制) 都道府県知事は[略]是正するために必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
第19条(青少年健全育成推進委員会) 内閣府設置法に基づいて、青少年健全育成推進委員会を置く。
第31条(有害情報の基準) 青少年健全育成推進委員会は、青少年健全育成推進委員会規則を制定することができる。
第32条(紛争処理機関) 主務大臣等は、一般社団法人又は一般財団法人であって、紛争処理の業務を公正かつ適確に行うことができると認められるものを、紛争処理の業務を行なう者として指定することができる。
第51条(罰則) 第9条又は第13条の規定による命令に違反した者は、6月以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
もっとも問題なのは、第9・10条の行政処分と第51条の罰則である。携帯電話では、すでにフィルタリングが業界の自主規制で行なわれており、携帯電話は寡占市場なので、あえて公権力が介入する必要があるとは思われない。逆にインターネットでは、ISPは2000以上あり、そのすべてを監視し、是正命令を出すのは不可能だ。「みせしめ」的に特定のISPが摘発されるおそれが強い。
主務大臣等という規定も曲者である。この法案では、青少年健全育成推進委員会・総務相・経産相が主務大臣に該当することになっているが、このように特定の業界に対する「業法」として立法することは、情報通信産業に一般のメディアにはないハンディキャップを負わせる結果になる。また、この法案を書いたのは警察庁だといわれており、実際には「等」のところに警察が入る可能性がある。
このような罰則つきの法律が成立すると、個人情報保護法のように過剰コンプライアンスが起こり、怪しい情報をISPが予防的に削除するなどの萎縮効果が大きい(自民党もそれをねらっているのだろう)。ただ紛争処理機関の設置は評価できる。こうしたADRによって、当事者間で司法的に解決するのが本筋だ。
他方、民主党案は、事務局長の高井美穂氏の話では、青少年有害情報の定義を「(1)著しく性的感情を刺激する情報、(2)著しく残虐性を助長する情報、(3)著しく自殺又は犯罪を誘発する情報、(4)特定の児童に対するいじめに当たる情報であって当該児童に著しい心理的外傷を与えるおそれがあるもの」とするなど、文言まで自民党案とそっくりだ。自民党の推進役である高市早苗氏とすり合わせしているのだろう。
総務省も「インターネット上の違法・有害情報への対応に関する検討会」で、第三者機関の設置を検討している。こちらは公権力がどの程度関与するかについてはまだはっきりしないが、今国会に法案を提出するというのは同じだ。いずれにせよ、今国会で何らかの形でネット規制法案が成立する可能性が高い。
ISPは、携帯フィルタリングをめぐる混乱を対岸の火事と思っているかもしれないが、このまま放置すると、今度はもっときびしい罰則つきの法律が、インターネット全体について成立するおそれが強い。業界が自主的に青少年保護の基準をつくって対応すると同時に、少なくとも自民党案の罰則規定は外すよう一致して行動を起すべきだ。
5年前の個人情報保護法のときは、民主党が自民党より規制の強い野党案を出した。このときも事務方の経産省は規制に慎重だったのに、日弁連が 自己情報コントロール権なるものを宣言して規制強化の旗を振り、新聞協会は「自分たちだけは適用除外にしろ」というキャンペーンを張ったため、インターネットだけが規制対象になった。あの失敗を繰り返してはならない。
追記:長くなるので省いた第3~8条と12・13条を加えた。フィルタリングだけでなく、第3条の2で削除義務が定められている。第9・10条の行政処分は、これらの義務に反した場合の罰則である。
追記2:自民党案の骨子をアップロードした。有害情報の定義は、この記事では一部省略したが、法案も骨子と同じだ。
訂正:「雑則」の後なので見落としたが、第51条に懲役・罰金の規定がある。本文を修正した。


