土曜日の朝日新聞に、福岡伸一氏のおもしろいエッセイが出ている。食品偽装問題が発覚したのは、ほとんど内部告発が発端で、消費者にはわからなかった。古い材料も新しいものと混ぜてしまうと、わからないからだ。再生紙の偽装問題も、再生紙が何%混じっているかは消費者にはわからない。しかも古紙を分別するコストがかかるため、再生紙はかえって高くついてしまう。いったん混ぜてエントロピーが増えると、それを元に戻すには大きなエネルギーが必要になるので、「リサイクル」は資源の浪費になることが多い。

これは経済にもいえる。たとえば赤福餅の場合には、古い材料を使ったことを作業員は知っているから、それを混ぜるのをやめればよい。これは単純な情報の非対称性の問題だ。しかしサブプライムローンの残高は、世界の証券市場の1%強にすぎないのに、不動産がらみの証券は世界中で値下がりしている。それは不良債権を証券化して優良債権と混ぜ、さらにそれをSPVなどを使って他の投資と混ぜる・・・というように複雑なしくみでリスクを分散しているからだ。

こうなると情報は非対称ではなく、どこにリスクが混じっているのか、だれにもわからなくなるから、リスクはナイトの不確実性に化け、とにかくABS(資産担保証券)はすべて売るという「確実性への逃避」が起こる。その逆資産効果で消費が落ち込むのを懸念して、まったく関係のない株式まで売られる――というのが現状だ。

これはエンロン事件とよく似ている。金融商品のしくみがあまりにも複雑になってしまったため、だれにも全貌がわからないのだ。だから必要なのは、金融緩和や財政政策よりも、まず古紙から紙とゴミを分別するように、サブプライムのリスクがどういう証券にどれだけ混じっているか、そしてどこには混じっていないかをFRBが徹底的に解明して投資家に(図解などで)わかりやすく説明し、エントロピーを減らす政策だろう。