NHKの福地新会長がきょう就任し、職員に「NHKはがけっぷちに立っている」と訓示したそうだ。たしかに今度の事件は深刻だが、彼はNHKがどんながけっぷちに立っているかご存じだろうか。
これまでにもNHKは、何度もがけっぷちに立ってきた。最初は1990年ごろ、島会長が赤字財政を立て直そうとしたときだ。彼は報道をグローバルな24時間ニュースにする一方、番組制作局をプロダクションとして切り離し、ラジオ第2放送や教育テレビや衛星第2を廃止して「ビデオ販売に切り替える」と言っていた。今でいえば、ネット配信だ。
動きの激しい多メディア時代には、経営に国会承認が必要な公共放送では競争に勝てないので、NHK本体にはニュースと送出機能だけを残し、実質的な制作部門はMICO(国際メディア・コーポレーション)が中枢となり、世界の番組を輸入するとともに世界にNHKの番組を売る、というのが島の構想だった。いま思えば大風呂敷にすぎた面もあるが、福地氏には当時の経営戦略(NHKにまだ残っているだろう)を読んでみることをおすすめしたい。
しかし島に左遷された海老沢氏が、1991年にクーデターを起し、島とともに改革派を一掃してしまった。海老沢氏とその子分は、メディア戦略どころかテレビも知らない派閥記者で、ここからNHKの「失われた13年」が始まった。デジタル放送も、海老沢氏が技術陣のいいなりで始め、最初は「デジタルの伝道師」などと気取っていたが、やってみて失敗に気づいた。
今回の事件の示しているNHKの最大の問題は、情報システムまで含めて、技術がNHKのテレビ技術者に丸投げになっていることだ。彼らは個人的には優秀だが、その発想は20年前のIBMのメインフレーム技術者や10年前のNTTの「交換屋」の人々と同じで、レガシーシステムをいかに延命するか、という角度からしかものを考えない。それがISDB-Tからコピーワンスに至る混乱した戦略の原因だ。
私が9年前にNHKの技研に職員研修にまねかれたとき、「これからはすべてIPになるから、地上デジタル放送なんかやめるべきだ」といったら、質疑で出てきたのは「論理的には同感だが、どうすれば軌道修正できると思うか」「プラットフォームはむしろXMLになるのではないか」といった的確なものが多かった。当時の技研の所長も次長も「IPに対応しないと、われわれの食い扶持もなくなる」と言っていた。
ところが技術陣の本流は研究所ではなく、技術本部で調達や運用を行なっている人々だ。彼らは「放送ゼネコン」と癒着し、I通信機を初めとする調達先に大量に天下り、そこに開発させた機材を民生用の10倍ぐらいの価格で随意契約することで利権を温存している。まず、この利権構造にメスを入れる必要がある。技研も、民間に売却すべきだ。研究所をもっている放送局なんか、他の国にはない。
今度のお粗末なセキュリティも、そこから派生した問題である。私のいたころは局内に5社・6系統のコンピュータ・ネットワークがあり、たびたび「システム統合委員会」が開かれた。私も呼ばれたが、必ずITゼネコンの講師が出てきて「統合するなら当社のシステムで」とやり、それぞれに技術陣の応援団がついていたため、2年間に20回ぐらい会議をやっただけで何も結論は出なかった。
NCシステムで、いまだに20年前と同じメインフレームを使っているのには驚いたが、おそらく他のシステムもそう変わっていないだろう。「ネット配信」のセンターになるはずの川口のアーカイブのサーバに入っているのは、ベータマックス(!)の試写用映像だけで、それを東京からオンラインで見て資料請求すると、テープをトラックで運ぶ。60万本の資料テープの90%以上は、データ化もされていない。こんな石器時代みたいなシステムで、ネット配信なんかできっこない。
福地会長は、まず現在の理事を総辞職させ、外部からインターネットのわかる理事をまねくとともにCIOを設け、局内のシステムを報道・編成・資料・経理まですべてイントラネットに統合すべきだ。ついでに送出もIPに統合すれば、地デジもいらなくなる。だいたい地デジのストリームもIP over WDMで局間伝送しているのだから、それを電波に変換しないで、そのままDSLやFTTHに流せばいいのだ。
2011年にアナログを停波して地デジに移行できると思っている職員は、私の知るかぎり1人もいない。むしろ彼らが恐れているのは、もう1080iが最新技術ではないということだ。「フルハイビジョン」の液晶モニターで見ると、MPEG特有のツブレがはっきり見えて、アナログより汚ない。ハリウッドが(マスター画質である)1080pでネット配信を始めたら、地デジの唯一のセールスポイントである「高画質」も売り物にならない。
今からでも遅くない。UHF帯はすべて政府に返納し、コーデックをH.264に変更してVHF帯のガードバンドで地デジをやれば、中継局も視聴者のアンテナも今のままでデジタル化できる。今までに売れた受信機にはH.264のチューナーを配布すればよい。UHFの中継局を全国に建てるコストよりはるかに安い。
・・・という文章が理解できる理事も、おそらく1~2人しかいないだろう。賛成であれ反対であれ、この記事がわからないような職員は、たとえ「文科系」だろうと理事にしてはいけない。今回は、これまでのボタンの掛け違えをリセットし、古い約束を破る最後のチャンスである。
これまでにもNHKは、何度もがけっぷちに立ってきた。最初は1990年ごろ、島会長が赤字財政を立て直そうとしたときだ。彼は報道をグローバルな24時間ニュースにする一方、番組制作局をプロダクションとして切り離し、ラジオ第2放送や教育テレビや衛星第2を廃止して「ビデオ販売に切り替える」と言っていた。今でいえば、ネット配信だ。
動きの激しい多メディア時代には、経営に国会承認が必要な公共放送では競争に勝てないので、NHK本体にはニュースと送出機能だけを残し、実質的な制作部門はMICO(国際メディア・コーポレーション)が中枢となり、世界の番組を輸入するとともに世界にNHKの番組を売る、というのが島の構想だった。いま思えば大風呂敷にすぎた面もあるが、福地氏には当時の経営戦略(NHKにまだ残っているだろう)を読んでみることをおすすめしたい。
しかし島に左遷された海老沢氏が、1991年にクーデターを起し、島とともに改革派を一掃してしまった。海老沢氏とその子分は、メディア戦略どころかテレビも知らない派閥記者で、ここからNHKの「失われた13年」が始まった。デジタル放送も、海老沢氏が技術陣のいいなりで始め、最初は「デジタルの伝道師」などと気取っていたが、やってみて失敗に気づいた。
今回の事件の示しているNHKの最大の問題は、情報システムまで含めて、技術がNHKのテレビ技術者に丸投げになっていることだ。彼らは個人的には優秀だが、その発想は20年前のIBMのメインフレーム技術者や10年前のNTTの「交換屋」の人々と同じで、レガシーシステムをいかに延命するか、という角度からしかものを考えない。それがISDB-Tからコピーワンスに至る混乱した戦略の原因だ。
私が9年前にNHKの技研に職員研修にまねかれたとき、「これからはすべてIPになるから、地上デジタル放送なんかやめるべきだ」といったら、質疑で出てきたのは「論理的には同感だが、どうすれば軌道修正できると思うか」「プラットフォームはむしろXMLになるのではないか」といった的確なものが多かった。当時の技研の所長も次長も「IPに対応しないと、われわれの食い扶持もなくなる」と言っていた。
ところが技術陣の本流は研究所ではなく、技術本部で調達や運用を行なっている人々だ。彼らは「放送ゼネコン」と癒着し、I通信機を初めとする調達先に大量に天下り、そこに開発させた機材を民生用の10倍ぐらいの価格で随意契約することで利権を温存している。まず、この利権構造にメスを入れる必要がある。技研も、民間に売却すべきだ。研究所をもっている放送局なんか、他の国にはない。
今度のお粗末なセキュリティも、そこから派生した問題である。私のいたころは局内に5社・6系統のコンピュータ・ネットワークがあり、たびたび「システム統合委員会」が開かれた。私も呼ばれたが、必ずITゼネコンの講師が出てきて「統合するなら当社のシステムで」とやり、それぞれに技術陣の応援団がついていたため、2年間に20回ぐらい会議をやっただけで何も結論は出なかった。
NCシステムで、いまだに20年前と同じメインフレームを使っているのには驚いたが、おそらく他のシステムもそう変わっていないだろう。「ネット配信」のセンターになるはずの川口のアーカイブのサーバに入っているのは、ベータマックス(!)の試写用映像だけで、それを東京からオンラインで見て資料請求すると、テープをトラックで運ぶ。60万本の資料テープの90%以上は、データ化もされていない。こんな石器時代みたいなシステムで、ネット配信なんかできっこない。
福地会長は、まず現在の理事を総辞職させ、外部からインターネットのわかる理事をまねくとともにCIOを設け、局内のシステムを報道・編成・資料・経理まですべてイントラネットに統合すべきだ。ついでに送出もIPに統合すれば、地デジもいらなくなる。だいたい地デジのストリームもIP over WDMで局間伝送しているのだから、それを電波に変換しないで、そのままDSLやFTTHに流せばいいのだ。
2011年にアナログを停波して地デジに移行できると思っている職員は、私の知るかぎり1人もいない。むしろ彼らが恐れているのは、もう1080iが最新技術ではないということだ。「フルハイビジョン」の液晶モニターで見ると、MPEG特有のツブレがはっきり見えて、アナログより汚ない。ハリウッドが(マスター画質である)1080pでネット配信を始めたら、地デジの唯一のセールスポイントである「高画質」も売り物にならない。
今からでも遅くない。UHF帯はすべて政府に返納し、コーデックをH.264に変更してVHF帯のガードバンドで地デジをやれば、中継局も視聴者のアンテナも今のままでデジタル化できる。今までに売れた受信機にはH.264のチューナーを配布すればよい。UHFの中継局を全国に建てるコストよりはるかに安い。
・・・という文章が理解できる理事も、おそらく1~2人しかいないだろう。賛成であれ反対であれ、この記事がわからないような職員は、たとえ「文科系」だろうと理事にしてはいけない。今回は、これまでのボタンの掛け違えをリセットし、古い約束を破る最後のチャンスである。


