私のRSSリーダーには、日本のブログは5つしか入っていないので、それ以外は読まないのだが、その1つであるdankogai氏からのTBで、また内田樹氏の変な記事を読まされたので、簡単に事実誤認を訂正しておく。

まず今回のNHKの事件が「モラルハザード」だというのは誤りである。これはウィキペディアに書かれている通り、「プリンシパル・エージェント関係において、エージェントの行動について、プリンシパルが知りえない情報があることから、エージェントの行動に歪みが生じ、効率的な資源配分が妨げられる現象」をさす。つまり契約の一方の当事者が、隠れて相手の利益に反する行動をとることであり、市場にプリンシパルはいないので、今回の事件はモラルハザードではない。

したがって以下の記事はすべてナンセンスなのだが、他にも間違いが多い。「インサイダーはアウトサイダーとの情報差を利用して金儲けをしてはいけないという常識」とあるが、磯崎さんも指摘するように、これも常識ではない。そもそも今回の事件がインサイダー取引にあたるかどうかも疑わしい。

インサイダー取引を取り締まる必要はないという説も、経済学では有力だ。内田氏も(皮肉のつもりで)書いているとおり「企業活動の変化を市場に先んじて察知した投資家が短期間に莫大な利益を得るというのは合法的な経済活動」だからである。これも当ブログで論じたとおり、インサイダー取引は自然法的には違法行為とはいえないし、株式以外の市場(商品先物など)では規制されていない。「モラルハザードというのはマルチ商法に似ている」というのも意味不明だ。モラルハザードは、他人を「騙す」行為ではない。

内田氏は現代思想の専門家らしいが、以前のマルクスの記事といい、ちょっと前のポパーの記事といい、文献をちゃんと読んでいない上に、今回のように他の学問分野の専門用語を誤って使うようでは、彼のたくさん書いている本も信頼性を問われよう。私は読んだことはないし、読む気もないが。