今年は、中国がいろいろな意味で注目されるだろう。もちろん最大のトピックはオリンピックだが、ITでもアジアのトップランナーになる可能性がある。その行方を占うのが、昨年末に出た検索エンジンについての二つの著作権訴訟の判決だ。12月21日に出た ヤフーチャイナについての判決ではヤフーが負けたが、31日に出た百度(Baidu)についての判決ではBaiduが勝訴した。
どっちの事件も音楽業界が訴えた理由は同じで、.mp3という拡張子のファイルを検索するサービスを提供していることが著作権法違反だというのだ。しかし、たとえばグーグルでも"imagine.mp3"で検索すれば4万以上のMP3ファイルが出てくる。他方、Baiduは.docや.pdfなどの拡張子で検索するサービスも提供しているが、こっちは著作権侵害にはならないのだろうか?
・・・と考えればわかるように、著作権法を厳密に適用すれば、すべての検索エンジンばかりか、インターネットの利用を全面的に禁止しなければならない。これは日本でも同じで、現在の著作権法(無方式主義)では、すべての文書に著作権が自動的に付与されるので、他人のファイルを複製(ダウンロード)することはすべて違法行為になる。これでは不便なので、著作権法の第30条では「私的使用」に限って複製が認められている。しかし、これさえ制限しようというのが、今度の文化庁の改正案だ。
他方、Baiduが中国でグーグルをしのぐ人気を集めている最大のセールスポイントは、このMP3検索機能だ。BaiduはNASDAQに上場し、その株価上位100企業に入っている。時価総額は126億ドル。NECを上回り、富士通とほとんど同じだ。これによってCDの売り上げが減ったと音楽業界は主張しているが、中国に行ってみればわかるように、正規のCDは売っているのを見つけるのに困るほどだ。アジア全域で売られている海賊盤の半分以上が、中国で製造されているともいわれる。マルクスは未来社会を、私有財産が廃止されて人々が資本主義の法則から解放される「自由の国」として描いたが、著作権に関するかぎり、中国は世界でもっとも自由な国なのだ。
Baiduのユーザーと株主が、そのサービスで大きな利益を得ていることは明白だが、それによって音楽業界のこうむっている損害はよくわからない。特に重要なのは、所得分配に及ぼす効果だ。中国の最貧層(1日の所得が1ドル以下)は、まだ3億人近くいると推定される。彼らにとっては、CD1枚の価格は1週間分の賃金を上回り、とても正規の市場で買える商品ではない。しかし彼らが海賊盤やMP3ファイルで音楽を知れば、音楽の市場は確実に広がり、さらにはその中からミュージシャンが出てくるかもしれない。
ただ中国がWTOに加入して以来、「知的財産権」を守れと主張する先進国の圧力も強い。今回、裁判所の判断(それは中国共産党の方針を反映している)がわかれたのも、こうした外圧にどう対応するか、判断がわかれているためだろう。この大規模な社会実験がどっちに向かうかは興味深い。従来の開発経済学の常識では、財産権を確立することが経済発展の必要条件だとされているが、中国や韓国でコンテンツが自由に流通することでブロードバンドが急速に普及している状況をみると、情報については違うかもしれない。
「反グローバリズム」の類の議論のほとんどはナンセンスだが、知的財産権に関しては、欧米型モデルはルールとしての整合性さえ破綻しており、中国の13億人に自然な規範として受け入れられるとは思えない。日本がアメリカよりも極端な「不自由の国」に退行しようとしているのをみると、Baiduを先頭とするアジア型モデルが、情報をオープンに共有して収益を上げる新しいシステムを開拓し、日本を追い抜くかもしれない。
追記:中国の音楽事情については、The Registerの記事がくわしい。
どっちの事件も音楽業界が訴えた理由は同じで、.mp3という拡張子のファイルを検索するサービスを提供していることが著作権法違反だというのだ。しかし、たとえばグーグルでも"imagine.mp3"で検索すれば4万以上のMP3ファイルが出てくる。他方、Baiduは.docや.pdfなどの拡張子で検索するサービスも提供しているが、こっちは著作権侵害にはならないのだろうか?
・・・と考えればわかるように、著作権法を厳密に適用すれば、すべての検索エンジンばかりか、インターネットの利用を全面的に禁止しなければならない。これは日本でも同じで、現在の著作権法(無方式主義)では、すべての文書に著作権が自動的に付与されるので、他人のファイルを複製(ダウンロード)することはすべて違法行為になる。これでは不便なので、著作権法の第30条では「私的使用」に限って複製が認められている。しかし、これさえ制限しようというのが、今度の文化庁の改正案だ。
他方、Baiduが中国でグーグルをしのぐ人気を集めている最大のセールスポイントは、このMP3検索機能だ。BaiduはNASDAQに上場し、その株価上位100企業に入っている。時価総額は126億ドル。NECを上回り、富士通とほとんど同じだ。これによってCDの売り上げが減ったと音楽業界は主張しているが、中国に行ってみればわかるように、正規のCDは売っているのを見つけるのに困るほどだ。アジア全域で売られている海賊盤の半分以上が、中国で製造されているともいわれる。マルクスは未来社会を、私有財産が廃止されて人々が資本主義の法則から解放される「自由の国」として描いたが、著作権に関するかぎり、中国は世界でもっとも自由な国なのだ。
Baiduのユーザーと株主が、そのサービスで大きな利益を得ていることは明白だが、それによって音楽業界のこうむっている損害はよくわからない。特に重要なのは、所得分配に及ぼす効果だ。中国の最貧層(1日の所得が1ドル以下)は、まだ3億人近くいると推定される。彼らにとっては、CD1枚の価格は1週間分の賃金を上回り、とても正規の市場で買える商品ではない。しかし彼らが海賊盤やMP3ファイルで音楽を知れば、音楽の市場は確実に広がり、さらにはその中からミュージシャンが出てくるかもしれない。
ただ中国がWTOに加入して以来、「知的財産権」を守れと主張する先進国の圧力も強い。今回、裁判所の判断(それは中国共産党の方針を反映している)がわかれたのも、こうした外圧にどう対応するか、判断がわかれているためだろう。この大規模な社会実験がどっちに向かうかは興味深い。従来の開発経済学の常識では、財産権を確立することが経済発展の必要条件だとされているが、中国や韓国でコンテンツが自由に流通することでブロードバンドが急速に普及している状況をみると、情報については違うかもしれない。
「反グローバリズム」の類の議論のほとんどはナンセンスだが、知的財産権に関しては、欧米型モデルはルールとしての整合性さえ破綻しており、中国の13億人に自然な規範として受け入れられるとは思えない。日本がアメリカよりも極端な「不自由の国」に退行しようとしているのをみると、Baiduを先頭とするアジア型モデルが、情報をオープンに共有して収益を上げる新しいシステムを開拓し、日本を追い抜くかもしれない。
追記:中国の音楽事情については、The Registerの記事がくわしい。
これからは中国が来る
というのをそこかしこで目にしますが、
現状(というか惨状)を見る限り当面の脅威にはなりえないでしょう
悪貨が良貨を駆逐するみたくとにかく数で勝負してくるだけで内容が伴っていません
今度のオリンピックがいろんな意味で楽しみです