日経新聞によれば、2.5GHz帯について総務省は、21日に開かれる電波監理審議会にKDDIとウィルコムに免許を与えるよう諮問することが「内定」したそうだ。1ヶ月前に出た観測記事のとおりになったところをみると、天下りの副会長のいるKDDIと、「日の丸技術」を推進するウィルコムに与える(菅前総務相の)約束が、最初からできていたのだろう。

約束を律儀に守ることが、日本人の長所だとよくいわれるが、これもよしあしである。年金のように公約をいい加減にごまかすのも困るが、官民の古い約束がずっと引き継がれると、システムの変更がきかない。企業でも正社員は定年まで雇用し、下請けとは永久に取引を続けるという約束を守るために、正社員以外の社員は低賃金で使い捨てにし、企業が破綻に瀕しても取引関係を見直さない。

ゴーン社長が短期間に日産を立て直せたのは、こうした暗黙の雇用関係や取引関係を「私はそんな約束は知らない」といって切ることができたからだ。Jensenは、企業買収の本質はこのように経営者が代わることによって約束を破るメカニズムだと論じた。破産処理が公的に約束を破棄する手続きだとすれば、LBOは「破産処理の民営化」なのである。他方、Shleifer-Summersは、企業買収によって創造される価値は、経営者が労働者や下請けの信頼を裏切って彼らの企業特殊的投資を事後的に横取りする機会主義によって生まれるのだと批判した。

たしかに、リストラでいつ切られるかわからない状況では、労働者も下請けも特定の企業にしか使えない技術を蓄積しなくなり、「すり合わせ」的な製造業は衰えるかもしれない(アメリカでは製造業は衰退した)。しかしIT産業のように要素技術がモジュール化され、グローバルな分業が成立すれば、こういう企業特殊的な投資はあまり必要なくなり、労働者の移動も自由になる。そこでは約束を破るコストは小さく、企業再編による本質的な価値創造が容易になる。

他方、日本の企業の生産性がいつまでたっても上がらない大きな理由は、約束の守りすぎだ。企業に天下った先輩から「おれのときこう決めた」といわれると、かつての部下だった官庁の担当者は従わざるをえない。ITゼネコンを通さなくても直接受注できる力のあるベンチャー企業も「談合を破ったら次からは仕事を回さない」といわれると、その下請けに入らざるをえない。

こうした日本の現状は「来年の生活は今年より悪くなる」といわれた1980年代のアメリカによく似ている。当時、ワンマン経営者に支配されたITTやUSXなどの巨大コングロマリットは衰退し、日本企業が自動車や電機などの市場を奪っていた。その状況を変えたのが、マイケル・ミルケンなどの開発したLBOやジャンク・ボンドなどの金融技術だった。アメリカ経済の回復は、企業買収によってこうした巨大企業を解体し、暗黙の契約を破ることで始まったのである。

だから今の日本に必要なのも、前世紀から持ち越してきた約束を破るメカニズムだ。それは企業では買収・再編であり、政治では政権交代である。あんな民主党でも、今までと違うだけましだ。彼らに既得権者との約束を破る度胸があるかどうかは別問題だが・・・