細かい話だが、bewaad氏からていねいな反論をいただいたので、お答えしておこう。
「円キャリー(金利裁定)は為替レートに中立です。『円安に賭ける』必要なんかない。現実にもここ数年、円安が続いたので、為替リスクは無視できたから、 1兆ドル以上も円キャリーが積み上がったのです」とのことですが、そもそもwebmasterは円キャリーが円安の原因となったなどと書いていない(逆に円安予測がむしろ円キャリーをもたらした、と書きました)ので、何に反論されているのか認識できません。
これは意味論的な議論だが、私のコメントでは「円キャリーとは金利差ではなく、将来は円安になるとの見込みに基づいて為替リスクを取ることで儲けを狙う取引なのです」(強調は引用者)というbewaad氏の記述が事実誤認であり、円キャリーの目的は金利裁定だと指摘したのだ。同じコメント欄でinstitutional_investor氏もいうように「円キャリーは為替が主目的の投資ではなく,円安になってくれればなお儲かる程度の副産物です」。金利差がなければ確実に鞘をとることはできないのだから、これほど大きな為替投機は発生しなかった。

「そもそもwebmasterは円キャリーが円安の原因となったなどと書いていない」といわれても、私はそんなことを書いてない。逆にbewaad氏がゼロ金利の弊害を過小評価し、それが円キャリーをまねいて円安(ドル高)の原因となったことを否定しているのがおかしい。金利差による円キャリーが円安をもたらすとともに、円安が円キャリーを促進する悪循環によって円安バブルが発生したからだ。

El-Erianも、日本の低金利政策が米ドルだけでなく、NZやブラジル、トルコなど高金利国への為替投機のコストを下げて世界に過剰流動性をばらまき、世界経済を不安定にしたと指摘している。円安のもう一つの原因は財務省の為替介入だったので、bewaad氏のお好きな「リフレ」政策が欧米のバブルを促進した責任はまぬがれない。これは彼が財務省の官僚と推定されることから、特に強調しておきたい。

なお貿易財の購買力平価をBig Mac Indexで代えたのは安易だった(グーグルで見つからなかったもので)。たとえばこの論文(Table4)では、2008年のfundamental equilibrium exchange rateを1ドル=90.1円と推定している。この計算では、今の為替レートは均衡レートに近いので、円安バブルはほぼ終わったと考えられる。

1980年代にも、円高不況への対応を金融政策だけに頼り、低金利政策を続けたことがバブルの原因になった。Bewaad氏の意見が財務省を代表しているとは思わないが、今回も財務省・日銀の円安・ゼロ金利政策がグローバル危機の一因であることを、財務省にはぜひ認識していただきたい。