大恐慌論
今年のノーベル経済学賞は、Bernanke、Diamond、Dybvigの3人が受賞した。バーナンキは誰でも知っているだろうが、後の2人を知っている人は少ないと思う。

一般向けの本では、投機バブルの崩壊が大恐慌を引き起こしたといった説明が多いが、投機の失敗だけで10年以上も2桁の失業率が続くことは考えられない。この「通説」に膨大な実証データを使って挑戦したのが、Friedman-Schwartzの記念碑的な研究である(ただし通読は困難)。

これは金融システムが崩壊していた時期にFRBが通貨供給を絞って信用収縮をまねいたのが致命的な間違いだったことを立証し、その後の定説となった。彼らの分析によれば、ケインズの提唱した財政政策は恐慌の原因を除去できない対症療法で、真の解決策は通貨供給を増やしてクレジット・クランチを回避すべきだったということになる。
Friedman-Schwartzを踏まえて、さらに詳細なデータの分析と国際比較を行なったのがBernankeである。ここで著者が指摘しているのは、金融機関の破綻が取り付け騒ぎを誘発し、それがさらに破綻を拡大するというDiamon-Dybvig複数均衡メカニズムだ。

FRBがこれを放置した結果、信用収縮が起きて決済機能が寸断され、経済活動が麻痺したことが、名目GDPが半減して失業率が25%になるという破局をもたらした。今回破綻した投資銀行は証券業なので大恐慌とは違うが、CDSには一種の決済機能があり、この市場が崩壊したことが信用収縮をまねいた。

Bernankeが新たに指摘したのは、金本位制がデフレを海外に伝播させたという国際的要因だ。これは日本でも、1930年に浜口内閣が行なった金解禁でよく知られているだろう。この点でも、変動相場制では金融政策の影響は為替レートの変動に吸収されて遮断されるので、「アメリカ発の世界金融恐慌」というのは大げさである。

要するに大恐慌は、金本位制という制度の欠陥とFRBの金融引き締めという誤った金融政策が周期的な景気循環を人為的に拡大し、決済機能が崩壊して実体経済が破壊されたものと考えられる。大恐慌の専門家であるBernankeがFRBの議長になったのは幸運なめぐり合わせで、彼は過去の誤りは繰り返さないだろう。

ただ金融緩和は、危機を克服する必要条件ではあるが十分条件ではない。投機によって積み上がった不良資産を処分して、相対価格を正常化する必要がある。金融破綻と信用不安は相乗効果をもつため、現在のアメリカ経済はDiamond-Dibvigの「悪い均衡」に落ち込んでいる。

ここから脱却するには、政府が介入して一定の「閾値」を超えるまで資産市場を支えなければならない。最終的には金融機関を清算・買収・資本注入などの方法で正常化しないと、経済は安定しないのだ。