著者は2003年、ハーバード・ビジネス・レビューに"IT Doesn't Matter"という論文を書いて論争を巻き起こし、本にまとめられた(邦訳)。それは実際には「ITなんて問題じゃない」という意味ではなく、ITがコモディタイズした時代には、ITを装備していることは大した優位にはならない、という常識的なことをいっただけだ。
本書も、最近はやりのcloud computingあるいはutility computingの紹介で、そう斬新なことが書かれているわけではない。副題に"Rewiring the World, From Edison to Google"とあるように、コンピュータの進化を電力(utility)と比較して論じている点が特徴だが、これも私が博士論文でテーマにしたGPT(汎用技術)の概念の解説だ。
電力も、当初は各工場ごとにモーターの隣に発電機があったが、しだいに発電機が集中され、大きな電力会社によって集中的に発電が行なわれるようになった。これはPCがインターネットで結ばれ、グーグルが集中的に情報処理を行なうようになったのに似ている。IBMの「ビッグブラザー」的な構造は、PCによっていったん否定されたが、グーグルは多くのPCを仲介することによって、分散ネットワークの中に集権的な構造を作り出したのだ。
そしてグーグルは、単なるデータベースから分散計算環境に進化しようとしている。いま彼らがめざしているAIは、かつてのエキスパート・システムのように与えられた命令を処理する機械ではなく、エリック・シュミットの言葉によれば「私が何を書くべきかを教えてくれるマシンだ」。PCは(ケータイを含めて)すでに人間の不可分の一部になったが、それを超える存在になるかもしれない。かつてユナボマーは、こう予言した。
本書も、最近はやりのcloud computingあるいはutility computingの紹介で、そう斬新なことが書かれているわけではない。副題に"Rewiring the World, From Edison to Google"とあるように、コンピュータの進化を電力(utility)と比較して論じている点が特徴だが、これも私が博士論文でテーマにしたGPT(汎用技術)の概念の解説だ。
電力も、当初は各工場ごとにモーターの隣に発電機があったが、しだいに発電機が集中され、大きな電力会社によって集中的に発電が行なわれるようになった。これはPCがインターネットで結ばれ、グーグルが集中的に情報処理を行なうようになったのに似ている。IBMの「ビッグブラザー」的な構造は、PCによっていったん否定されたが、グーグルは多くのPCを仲介することによって、分散ネットワークの中に集権的な構造を作り出したのだ。
そしてグーグルは、単なるデータベースから分散計算環境に進化しようとしている。いま彼らがめざしているAIは、かつてのエキスパート・システムのように与えられた命令を処理する機械ではなく、エリック・シュミットの言葉によれば「私が何を書くべきかを教えてくれるマシンだ」。PCは(ケータイを含めて)すでに人間の不可分の一部になったが、それを超える存在になるかもしれない。かつてユナボマーは、こう予言した。
機械が賢くなればなるほど、人々は自分の意思決定を機械にまかせるようになる。[・・・]そして遂には、彼らは機械なしに物事を決められなくなり、機械が人間を支配するようになる。人々はコンピュータに全面的に依存しているため、その電源を切れなくなる。それは彼らの自殺を意味するからだ。(p.226n)ただ著者は、物理的インフラが集中する一方、情報は各ユーザーがつくるuser-generated contentとして分散化し、ウェブが「バルカン化」する可能性が高いと予想する。その結果、在来型のメディアは無料化して産業としては縮小し、新聞は広告媒体となり、映像・音楽はインフラ産業のプロモーション・ツールとして買収されるだろう。意外に時代は、ソフトがハードのおまけだった時代に戻るのかもしれない。