最低保障年金は、新しい考え方ではない。民主党は2009年のマニフェストで「月額7万円の最低保障年金を実現します」とうたった。年金を1階と2階に分離し、1階部分は税でまかなうという骨格も、当時から同じだった。

野田内閣が2012年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」には「所得比例年金と最低保障年金の組み合わせからなる一つの公的年金制度にすべての人が加入する新しい年金制度の創設」が明記されていたが、3月に国会で成立した「社会保障制度改革推進法案」からは最低保障年金が消えていた。
最低保障年金は2013年に法案化することになっていたが、12年11月、野田首相が衆議院を解散し、民主党政権が崩壊したため法案化されず、忘れられた。なぜ民主党の看板政策だった最低保障年金は、消えてしまったのか。『日本の年金は何故かくも不可思議なのか』は、その経緯を国会の議事録にさぐっている。
民主党の中でも、消費税の増税については異論があった。マニフェストでは消費税にふれていなかったが、鳩山首相が国会答弁で「4年間は消費税を上げない」と答弁しており、党内でも小沢一郎氏などが消費税の増税に反対していた。
このため「推進法案」からは最低保障年金が消え、問題を社会制度改革国民会議に丸投げした。この会議は清家篤氏(慶應義塾塾長)や権丈善一氏(慶応大学教授)など厚労省系の御用学者が多く、厚労省の最大の利権である社会保険料を税に置き換えることには反対だった。それは社会保障を財務省が支配することになるからだ。
その結果、安倍政権で2013年10月にできたプログラム法案(税制改革法案)には、消費税の増税が入ったが、最低保障年金は消えた。それは年金制度の社会保険という建前を維持しながら、現役世代からの「拠出金」や「支援金」で老人福祉や老人医療を延命するものだった。
このとき消費税はまだ5%だったので、それを10%に増税しないと成り立たない「月7万円の最低保障」のハードルは高かったが、逆にいうとそれ以外の障害はそれほど大きくない。高齢者の年金受給権の既得権は守られ、厚生年金の拠出金はなくなり、世代間の負担と給付の不公平も大幅に改善する。
今はもう消費税率は10%で、消費税収は23.8兆円。基礎年金勘定は25.6兆円だから2兆円ぐらい足りないが、第3号被保険者は第1号に吸収され、未納の補填もなくなるので増税は必要ない。ところが河野太郎氏も含めてみんな「5%足りない」という固定観念をもっている。
最低保障年金を提案したのは、枝野幸男、岡田克也、長妻昭などの当時の民主党政権の幹部である。立民党も参加して、2012年の「大綱」に立ち返ってはどうだろうか。

野田内閣が2012年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」には「所得比例年金と最低保障年金の組み合わせからなる一つの公的年金制度にすべての人が加入する新しい年金制度の創設」が明記されていたが、3月に国会で成立した「社会保障制度改革推進法案」からは最低保障年金が消えていた。
最低保障年金は2013年に法案化することになっていたが、12年11月、野田首相が衆議院を解散し、民主党政権が崩壊したため法案化されず、忘れられた。なぜ民主党の看板政策だった最低保障年金は、消えてしまったのか。『日本の年金は何故かくも不可思議なのか』は、その経緯を国会の議事録にさぐっている。
消費税の増税が最大のハードルだった
2012月の「大綱」には最低保障年金が入っていたが、これについて三党合意のパートナーである自民党と公明党は反対していた。これは1960年代以来の「年金は社会保険」という原則を転換し、増税への道を開くものだという理由だった。それまで国民年金保険料をはらった人に40年かけて償還する点も無理があると批判した。民主党の中でも、消費税の増税については異論があった。マニフェストでは消費税にふれていなかったが、鳩山首相が国会答弁で「4年間は消費税を上げない」と答弁しており、党内でも小沢一郎氏などが消費税の増税に反対していた。
このため「推進法案」からは最低保障年金が消え、問題を社会制度改革国民会議に丸投げした。この会議は清家篤氏(慶應義塾塾長)や権丈善一氏(慶応大学教授)など厚労省系の御用学者が多く、厚労省の最大の利権である社会保険料を税に置き換えることには反対だった。それは社会保障を財務省が支配することになるからだ。
その結果、安倍政権で2013年10月にできたプログラム法案(税制改革法案)には、消費税の増税が入ったが、最低保障年金は消えた。それは年金制度の社会保険という建前を維持しながら、現役世代からの「拠出金」や「支援金」で老人福祉や老人医療を延命するものだった。
このとき消費税はまだ5%だったので、それを10%に増税しないと成り立たない「月7万円の最低保障」のハードルは高かったが、逆にいうとそれ以外の障害はそれほど大きくない。高齢者の年金受給権の既得権は守られ、厚生年金の拠出金はなくなり、世代間の負担と給付の不公平も大幅に改善する。
今はもう消費税率は10%で、消費税収は23.8兆円。基礎年金勘定は25.6兆円だから2兆円ぐらい足りないが、第3号被保険者は第1号に吸収され、未納の補填もなくなるので増税は必要ない。ところが河野太郎氏も含めてみんな「5%足りない」という固定観念をもっている。
最低保障年金を提案したのは、枝野幸男、岡田克也、長妻昭などの当時の民主党政権の幹部である。立民党も参加して、2012年の「大綱」に立ち返ってはどうだろうか。