今週の「サイバーリバタリアン」のテーマはマイクロソフトだが、そこには書けなかった、もう一つのifがある。歴史にifは無意味だが・・・
1998年、アメリカの司法省はマイクロソフトを反トラスト法違反で訴え、1審ではマイクロソフトを分割する判決が2000年に出た。しかし控訴審では1審判決がくつがえされ、マイクロソフトがAPIなどを公開することを求めると同時に、反競争的行為を監視する委員会をつくる、という和解が2001年に成立した。これはマイクロソフトの実質的な勝訴とみられたが、法廷闘争はそこで終わらなかった。
欧州委員会もマイクロソフトについて調査を開始し、2003年にはWindows Media PlayerをWindowsに統合しないよう求め、2004年にはサーバOSについての情報開示を求めた。マイクロソフトがそれに応じなかったというのが、今回の罰金の理由だ。アメリカ国内でも、各州や消費者からの訴訟は続き、マイクロソフトは膨大な法務コストに悩まされるとともに、製品開発も政府に監視され、制約されるようになった。
もしマイクロソフトが1審判決に対して控訴せず、アプリケーション会社とOS会社に「水平分離」されていたら、どうなっただろうか? 反トラスト法で実際に企業分割が行なわれた例は、19世紀のスタンダード・オイルと、1984年のAT&Tしかないが、いずれの場合も、もとの会社の時価総額より、分割された会社の合計のほうが高くなっているのだ。
AT&Tの場合は、分割当時600億ドルだった時価総額が、現在は分割された各社を合計すると2700億ドルを超えている。他方、分割しなかったNTTグループの時価総額は、1987年の19兆円から現在は16兆円に下がっている。これには複雑な理由があるが、最大の効果は規模の適正化によって「大企業病」の弊害が少なくなることだろう。分割前のAT&Tは、従業員が100万人を超える異常な巨大企業だった。
競争政策の観点からみて大きいのは、企業分割の代わりに行為規制が少なくなるという効果だ。マイクロソフトの場合、1審判決の通り分割されれば、アプリケーション会社は政府の監視を受けないで自由にビジネスができ、インターネットにも迅速に対応できたかもしれない。
中島聡氏は、マイクロソフトがネット事業に出遅れた原因は、IEをWindowsの独占を守る「防具」として使うという経営判断の誤りにあったと指摘している。もしマイクロソフトが1審判決に従い、IEをアプリケーション会社の製品としてOS会社から分離していれば、こういう失敗は起こらず、アプリ会社はMSNを中心にした「ネット会社」に変身し、今ごろヤフーを買う必要もなかったかもしれない。
要するにITの世界では、大きいことはよくないのだ。この業界では、イノベーションを最大化することが競争に勝つ決定的な条件なので、会社が大きくなればなるほど実験的な事業がやりにくくなり、革新的な技術が無理解な経営陣によって葬られるfalse negativeが増えてしまう。
これはNTTも同じだ。2010年に予定されている「再々編」論議にむけて、たとえば山田肇氏と私が4年前に提案したように、インフラ会社を水平分離する代わりにサービス会社の規制を全面的に撤廃する、といった提案をNTT側からしてはどうだろうか。
1998年、アメリカの司法省はマイクロソフトを反トラスト法違反で訴え、1審ではマイクロソフトを分割する判決が2000年に出た。しかし控訴審では1審判決がくつがえされ、マイクロソフトがAPIなどを公開することを求めると同時に、反競争的行為を監視する委員会をつくる、という和解が2001年に成立した。これはマイクロソフトの実質的な勝訴とみられたが、法廷闘争はそこで終わらなかった。
欧州委員会もマイクロソフトについて調査を開始し、2003年にはWindows Media PlayerをWindowsに統合しないよう求め、2004年にはサーバOSについての情報開示を求めた。マイクロソフトがそれに応じなかったというのが、今回の罰金の理由だ。アメリカ国内でも、各州や消費者からの訴訟は続き、マイクロソフトは膨大な法務コストに悩まされるとともに、製品開発も政府に監視され、制約されるようになった。
もしマイクロソフトが1審判決に対して控訴せず、アプリケーション会社とOS会社に「水平分離」されていたら、どうなっただろうか? 反トラスト法で実際に企業分割が行なわれた例は、19世紀のスタンダード・オイルと、1984年のAT&Tしかないが、いずれの場合も、もとの会社の時価総額より、分割された会社の合計のほうが高くなっているのだ。
AT&Tの場合は、分割当時600億ドルだった時価総額が、現在は分割された各社を合計すると2700億ドルを超えている。他方、分割しなかったNTTグループの時価総額は、1987年の19兆円から現在は16兆円に下がっている。これには複雑な理由があるが、最大の効果は規模の適正化によって「大企業病」の弊害が少なくなることだろう。分割前のAT&Tは、従業員が100万人を超える異常な巨大企業だった。
競争政策の観点からみて大きいのは、企業分割の代わりに行為規制が少なくなるという効果だ。マイクロソフトの場合、1審判決の通り分割されれば、アプリケーション会社は政府の監視を受けないで自由にビジネスができ、インターネットにも迅速に対応できたかもしれない。
中島聡氏は、マイクロソフトがネット事業に出遅れた原因は、IEをWindowsの独占を守る「防具」として使うという経営判断の誤りにあったと指摘している。もしマイクロソフトが1審判決に従い、IEをアプリケーション会社の製品としてOS会社から分離していれば、こういう失敗は起こらず、アプリ会社はMSNを中心にした「ネット会社」に変身し、今ごろヤフーを買う必要もなかったかもしれない。
要するにITの世界では、大きいことはよくないのだ。この業界では、イノベーションを最大化することが競争に勝つ決定的な条件なので、会社が大きくなればなるほど実験的な事業がやりにくくなり、革新的な技術が無理解な経営陣によって葬られるfalse negativeが増えてしまう。
これはNTTも同じだ。2010年に予定されている「再々編」論議にむけて、たとえば山田肇氏と私が4年前に提案したように、インフラ会社を水平分離する代わりにサービス会社の規制を全面的に撤廃する、といった提案をNTT側からしてはどうだろうか。