
著者(Vernon Smith)は、実験経済学のパイオニアとしてスウェーデン銀行賞を受賞した有名な経済学者だが、"Constructivist and Ecological Forms"という副題から予想されるように、これまでの実験結果をハイエクの理論で体系化しようとするものだ。従来の新古典派的な行動仮説を計画的合理性、それに対してハイエクのいう進化的なプロセスで獲得された知識を生態学的合理性とよび、両者のどちらが実験結果についての(定性的)説明力があるかを検証する。結論を大まかにいうと、
- 市場のような非人格的な関係においては、計画的合理性による「経済人」仮説の説明力が高い。しかしこの結果は財産権という外的な条件に依存しており、その発生を説明することはむずかしい。そういう規範が自発的に成立するかどうかの実験では、生態学的合理性の説明力のほうがはるかに高い。
- こうした「協力の生成」については、繰り返しゲーム理論による説明がおなじみだが、被験者がそういう将来のペイオフを計算した形跡はなく、「相互性」などの感情の影響が強い。協力を無理にゲーム理論の計画的合理性で説明するより、多くの社会科学で採用されている標準的社会科学モデル(SSSM)を仮説として検証したほうがよい。
- 従来の計画的合理性のみにもとづいて厳密に構成されたメカニズム・デザインの理論は、政策として実用にならない。人々は、そこで想定されているような多段階の複雑な推論をしないからだ。現実の制度を設計する上では、実験的な成果を踏まえ、生態学的合理性にも配慮した経済システム設計(Economic System Design)が必要だろう。
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