・・・といったアンケートが、このごろよく来る。「アルファブロガーになる秘訣は?」「おすすめのブログは?」といった類だ。私はアルファブロガーだとも思っていないし、そうなりたいとも思わない。ただ思いつきを忘れないうちにメモしているだけで、日本のブログもほとんど読まない。こういうアンケートには一切こたえないので、今後は送らないでください。

その類のハウツー本の典型が、本書である(画像はクリッカブルになっていない)。ベストセラーというのは下らない本と相場が決まっているが、本書も例外ではない。そもそも、こういうタイトルをつける神経が信じられない。これは著者(勝間和代氏)の知的生産の効率が他人の10倍だということを前提にしているようだが、それが本当かどうかは、彼女の本を読んでみればわかる。

たとえば『お金は銀行に預けるな』は、マルキールの有名な教科書のダイジェスト版だ。アクティブファンドよりインデックスを買えといった話も、マルキールが30年以上前に明らかにし、最新版では部分的に撤回した。こういう新書を書くには、「知的生産術」なんか必要なく、マルキールの本を著作権法にふれないように薄めて書き直せばいい。たしかに、これなら「効率は10倍」だろう。

こういう「頭のよくなる本」とか「速読術」の類は、いつの時代にもベストセラーになる。その中身も、半世紀ぐらい前から同じだが、それでも売れるのは、普通のサラリーマンが自分の生産性の低さを痛感しているからだろう。ただ本当に普通の人の10倍以上の才能がある人の書いた本には、学ぶべきものがある。たとえば谷崎潤一郎『文章読本』は、日本語論としては見事な古典だ。

しかし谷崎の本を読んでも、あなたの文章が10倍うまくなることはありえない。彼の小説を生んだのは、その才能だからである。私も、梅棹忠夫『知的生産の技術』をまねて「京大カード」をたくさん作ったこともあるし、野口悠紀雄『「超」整理法』をまねてファイル整理をしたこともあるが、続かなかった。

要するに、知的生産の技術というのは、その人の職業やライフスタイルや知的水準などに依存する(M.ポラニーのいう)個人的知識であり、すべての人の生産性を10倍に上げる万能の特効薬なんかないのだ。特にファイナンスについては、一般論は何の役にも立たない(役に立つなら、経済学者はみんな大富豪になっているだろう)。知的生産性を上げるためにもっとも重要なのは、こういうお手軽なハウツー本やマスコミの通念を信じないで、自分の頭で徹底的に考えることである。