NGNにも関連するが、きのうのICPFセミナーの筒井多圭志さんの話は、今もめている8分岐問題で、通信業界以外の人にはほとんど理解できなかったと思うので、少し補足しておく。彼は、この問題をコンテスタビリティの概念で語ったが、これはミスリーディングだ。これはOECDの定義にもあるように、
経済学業界では、コンテスタビリティ理論というのは、理屈の上では明快なので20年ぐらい前に流行したが、実際の役に立たないので、最近はあまり使われない。この理論を教科書どおり適用したのがアンバンドル規制だが、欧米では(一部の小国を除いて)失敗した、というのが一般的な評価だ。特にアメリカの1996年電気通信法では、これを信じて参入したCLECが全滅した。
くわしいことは5年前の論文に書いたが、要するにホールドアップする材料は論理的には無限にあるので、UNE(unbundled network element)を厳密に定義することは不可能なのだ。これは不完備契約理論のありふれた応用問題で、そこに政府が介入しても、インカンバントはいくらでもボトルネックを作り出せる。アメリカのILECは「株主のために徹底的にCLECの参入を妨害する」と公言して訴訟を起し、FCCが負けた。
UNE規制が唯一、成功したのが日本だが、それはNTTが半国営で、政府がホールドアップしないよう(実質的に)命令したからだ。これは(銅線の償却の終わった)DSLのときは有効だったが、FTTHでは筋が通らないし、「株主価値」を掲げるNTTも今度はゆずらないだろう。光ファイバーの分岐にまで政府が介入するmicromanagementは、世界にも例がなく、通信規制を撤廃する方向に逆行する。
それより本質的な問題は、FTTHって本当に必要なのか、ということだ。EU委員会で話を聞いたとき、驚いたのは、彼らの統計にFTTHという項目がないことだ。欧州では、FTTH(FTTP)は業務用のインフラで、銅線に代わるものとは考えられていない。銅線は接続点さえ補修すれば半永久的に使えるし、VDSLは100Mbps以上出る。ムーアの法則が、FTTHを無意味にする可能性もある。
コンテスタビリティはハーバード学派の理論で、シカゴ学派は(前にも紹介したカーズナーのように)この概念そのものを否定し、参入が自由であるかぎり独占を規制する必要はないと考える。資源配分の効率なんてどうでもいい(計測もできない)問題で、大事なのはイノベーションなのだ。それを証明したのが、他ならぬソフトバンクである。
イノベーションが生まれるために重要なのは、政府が通信規制から退場し、NTTを完全民営化し、ガラパゴス化した通信業界をグローバルな競争にさらす制度設計だ。そのためには電波を全面的に開放し、有線/無線のプラットフォーム競争を実現する「電波ビッグバン」が必要だと思う。これについては、3月13日に予定しているICPFシンポジウムで議論したい。
追記:きのうは磯崎さんも来ていたようだ。FTTHの会計の部分は、私にはよくわからなかったので、意見を聞いてみたかった。
追記2:VDSLのリンクを変更した。"VDSL 2"はまだ実験段階だが、最大100Mbpsで12000フィートまで届く。ムーアの法則の破壊力は、いつもレガシー業者の想像力を超えるのである。
追記3:セミナーの議事録をICPFのサイトで公開した。
- 参入障壁がない
- すべての企業が同じ技術にアクセスできる
- 完全情報がある
- 参入者は自由に退出できる
経済学業界では、コンテスタビリティ理論というのは、理屈の上では明快なので20年ぐらい前に流行したが、実際の役に立たないので、最近はあまり使われない。この理論を教科書どおり適用したのがアンバンドル規制だが、欧米では(一部の小国を除いて)失敗した、というのが一般的な評価だ。特にアメリカの1996年電気通信法では、これを信じて参入したCLECが全滅した。
くわしいことは5年前の論文に書いたが、要するにホールドアップする材料は論理的には無限にあるので、UNE(unbundled network element)を厳密に定義することは不可能なのだ。これは不完備契約理論のありふれた応用問題で、そこに政府が介入しても、インカンバントはいくらでもボトルネックを作り出せる。アメリカのILECは「株主のために徹底的にCLECの参入を妨害する」と公言して訴訟を起し、FCCが負けた。
UNE規制が唯一、成功したのが日本だが、それはNTTが半国営で、政府がホールドアップしないよう(実質的に)命令したからだ。これは(銅線の償却の終わった)DSLのときは有効だったが、FTTHでは筋が通らないし、「株主価値」を掲げるNTTも今度はゆずらないだろう。光ファイバーの分岐にまで政府が介入するmicromanagementは、世界にも例がなく、通信規制を撤廃する方向に逆行する。
それより本質的な問題は、FTTHって本当に必要なのか、ということだ。EU委員会で話を聞いたとき、驚いたのは、彼らの統計にFTTHという項目がないことだ。欧州では、FTTH(FTTP)は業務用のインフラで、銅線に代わるものとは考えられていない。銅線は接続点さえ補修すれば半永久的に使えるし、VDSLは100Mbps以上出る。ムーアの法則が、FTTHを無意味にする可能性もある。
コンテスタビリティはハーバード学派の理論で、シカゴ学派は(前にも紹介したカーズナーのように)この概念そのものを否定し、参入が自由であるかぎり独占を規制する必要はないと考える。資源配分の効率なんてどうでもいい(計測もできない)問題で、大事なのはイノベーションなのだ。それを証明したのが、他ならぬソフトバンクである。
イノベーションが生まれるために重要なのは、政府が通信規制から退場し、NTTを完全民営化し、ガラパゴス化した通信業界をグローバルな競争にさらす制度設計だ。そのためには電波を全面的に開放し、有線/無線のプラットフォーム競争を実現する「電波ビッグバン」が必要だと思う。これについては、3月13日に予定しているICPFシンポジウムで議論したい。
追記:きのうは磯崎さんも来ていたようだ。FTTHの会計の部分は、私にはよくわからなかったので、意見を聞いてみたかった。
追記2:VDSLのリンクを変更した。"VDSL 2"はまだ実験段階だが、最大100Mbpsで12000フィートまで届く。ムーアの法則の破壊力は、いつもレガシー業者の想像力を超えるのである。
追記3:セミナーの議事録をICPFのサイトで公開した。