本書は重要である。それは著者が――みずからたびたび強調しているように――クリントン政権の労働長官として経済政策に大きな影響を与え、そしてもう一人のクリントンが大統領になろうとしているからだ。同じ意味で、クルーグマンの新著も重要だ。本書を絶賛しているレッシグを含む3人のうち、だれかが新政権に入るだろう。本書は、2009年以降のアメリカがどういう方向に進むかを予測する材料になる。

リベラルの本といえば、美しい建て前論ばかりで退屈なものと相場は決まっており、クルーグマンの本などはNYタイムズにさえ酷評されている。それに比べると、本書は21世紀なりの意匠がこらされている。ここ30年の所得格差の拡大についても、クルーグマンのように共和党政権を非難するのではなく、著者は「グローバル化とIT化の結果であり、この流れを政治の力で止めることはできない」という。どっちが経済学者だかわからない。

著者は「現代のガルブレイス」と揶揄されることもあるが、ガルブレイスのように巨大企業を批判するのではなく、「現代はもうGMのような恐竜の時代ではない」という。むしろ主役はマイクロソフトのようにグローバルに展開し、ウォルマートのように消費者にきわめて近く、シティグループのように投資家の資金を世界に効率的に配分する企業だ。情報技術革新によって恐竜は絶滅し、世界の消費者と投資家が国境を超えて経済を動かす「直接統治」の時代が始まったのだ。

したがって最終章の政策提言は、やや意外だ。企業という実体はもうないのだから、法人税は廃止すべきであり、「企業の社会的責任」にも意味がない。アウトソーシングする企業を非難するのもばかげている。「アメリカ企業の競争力を高める」のもナンセンスだ。もう企業に国籍はないのだから。大事なのは「スーパー資本主義」が政治の領域を侵し、民主主義を腐敗させるのを防ぐことだ。そのためには、世界でもっとも「自由」なアメリカの政治資金規制を強化し、労組を含めてロビイストの活動を制限する必要がある。

こうした現状分析は当ブログでも書いているような経済学の常識に近いが、伝統的な民主党の政策とはかなり違い、「リベラル2.0」とでもいうべき新鮮さがある。特に法人税の廃止というのは、フリードマンを初め多くの経済学者が提案してきた(しかし絶対に実現しない)政策だ。かつてクリントン政権が「小さな政府」をめざして成功したように、こういう政策をヒラリー政権がとるなら、民主党政権も悪くないかもしれない。ひるがえって日本をみると、同じ民主党の次元の低さにうんざりするが・・・