17日の記事で「2.5GHz帯の審査を公開せよ」と書いたら、総務省は急きょ22日に業者の「討論会」を開くと発表した。しかし「落選確実」を出された業者は「こんな短期間で、まともなプレゼンテーションはできない。ただのアリバイ作りだ」と反発している。このような議論が行なわれるのは、美人投票もなしに談合で決まった時代に比べれば一歩前進だが、世界的には15年前の状況である。
本書は、1994年に行なわれたアメリカの周波数(PCS)オークションを設計したポール・ミルグロム(たぶん10年以内にノーベル賞をとるだろう)が、オークション理論の基礎から電波政策などへの応用までを解説したものだ。内容は高度で一般向けではないが、「オークションは業者の経営を圧迫するのでよくない」という反対論がなぜ間違っているのか、といった点についてもていねいに解説されている。何よりも大事なのは、政府が直接介入するのではなく、市場を利用して自発的に目的を達成させるメカニズム・デザインの考え方だ。
PCSオークションは、ゲーム理論を実際の政策に応用し、コンピュータ・ネットワークを使って並列に100近いオークションを行い、数百億ドルの国庫収入を上げた「史上最大の社会実験」であり、経済理論の劇的な勝利だった。ゲーム理論の開拓者ジョン・ナッシュの生涯を描いた映画「ビューティフル・マインド」では、統合失調症から回復したナッシュが、オークション成功のニュースを聞いて「私の理論が役に立ったことを誇らしく思う」とコメントしていた。
本書も紹介しているように、オークションの設計にはいろいろなバリエーションがありうる。少なくとも今回のような密室審査よりましなメカニズムは、いくらでも設計可能だ。以前スタンフォード大学で著者と議論したとき、私が「スペクトラム拡散で動的に帯域を割り当てれば、オークションは不要だ」といったら、彼は「無線LANでも実際には混雑が起こる」といい、それを防ぐにはfast trackをオークションで端末に割り当てるなど、いろいろなアイディアを話してくれた。
日本語版への序文で著者は、築地の魚河岸で見た見事なせりのもようが本書を書くきっかけの一つだったと語っている。世界で初めて大規模なオークションや先物市場を実現したのは、大阪の堂島米市場だった。「日本人には市場主義は向いていない」などというのは、歴史を知らない人だ。今度の2.5GHz帯の混乱を契機に、総務省は電波政策を考え直すべきだ。本書は、そのための必読書である。
追記:著者はコンサルティング会社をつくって、各国のオークションなどの設計を請け負っている。総務省も、コンサルタントとして雇ってはどうだろうか。
本書は、1994年に行なわれたアメリカの周波数(PCS)オークションを設計したポール・ミルグロム(たぶん10年以内にノーベル賞をとるだろう)が、オークション理論の基礎から電波政策などへの応用までを解説したものだ。内容は高度で一般向けではないが、「オークションは業者の経営を圧迫するのでよくない」という反対論がなぜ間違っているのか、といった点についてもていねいに解説されている。何よりも大事なのは、政府が直接介入するのではなく、市場を利用して自発的に目的を達成させるメカニズム・デザインの考え方だ。
PCSオークションは、ゲーム理論を実際の政策に応用し、コンピュータ・ネットワークを使って並列に100近いオークションを行い、数百億ドルの国庫収入を上げた「史上最大の社会実験」であり、経済理論の劇的な勝利だった。ゲーム理論の開拓者ジョン・ナッシュの生涯を描いた映画「ビューティフル・マインド」では、統合失調症から回復したナッシュが、オークション成功のニュースを聞いて「私の理論が役に立ったことを誇らしく思う」とコメントしていた。
本書も紹介しているように、オークションの設計にはいろいろなバリエーションがありうる。少なくとも今回のような密室審査よりましなメカニズムは、いくらでも設計可能だ。以前スタンフォード大学で著者と議論したとき、私が「スペクトラム拡散で動的に帯域を割り当てれば、オークションは不要だ」といったら、彼は「無線LANでも実際には混雑が起こる」といい、それを防ぐにはfast trackをオークションで端末に割り当てるなど、いろいろなアイディアを話してくれた。
日本語版への序文で著者は、築地の魚河岸で見た見事なせりのもようが本書を書くきっかけの一つだったと語っている。世界で初めて大規模なオークションや先物市場を実現したのは、大阪の堂島米市場だった。「日本人には市場主義は向いていない」などというのは、歴史を知らない人だ。今度の2.5GHz帯の混乱を契機に、総務省は電波政策を考え直すべきだ。本書は、そのための必読書である。
追記:著者はコンサルティング会社をつくって、各国のオークションなどの設計を請け負っている。総務省も、コンサルタントとして雇ってはどうだろうか。