民主党が、きのう農業者戸別所得補償法案を国会に提出した。参議院選挙で公約した農家へのバラマキ政策は、単なるリップサービスではなかったわけだ。小沢一郎氏は「都市と農村の格差」を解消するというが、農家の所得のほうが非農家より高いことを彼は知っているはずだ。ちょっと古い数字だが、1998年でも兼業農家の年収が856万円に対して勤労者世帯は707万円。しかも農家全体の所得に占める農業収入は15%しかない。75%が第2種兼業農家、つまり農業もやるサラリーマンなのだ。

ところが日本の納税者一世帯当たりの農業補助金の負担は12万円と、世界一多い。OECDによれば、農業所得の56%が補助金で、EUの32%やアメリカの16%をはるかに上回る。このような補助金漬けの農家に、さらに1兆円の補助金をばらまこうという民主党の政策は、財源の見通しもない無責任なものだ。法案では、一応コメなどの補助金を見直して財源を捻出すると都合のいい計算をしているが、いったんつけた補助金を削減するのがどれほどむずかしいか、小沢氏は知っているだろう。

民主党は、この政策で「食料自給率を39%から80%に引き上げる」とうたっているが、当ブログで前にものべたように、食料自給率などという政策目標はナンセンスであり、それが倍増するという算定根拠もなんら示されていない。しかも、このような生産奨励のための補助金はWTO違反になるおそれが強い。

前にも書いたように、農産物の価格支持をやめて輸入を自由化する代償措置として中核農家に所得補償するのは、意味のある政策だ。しかし、この民主党案は貿易自由化にもふれておらず、無差別にばらまくだけで、松岡利勝がウルグアイ・ラウンドのとき脅し取った6兆円と同じだ。どうせ衆議院では否決されるから、農家向けにポーズだけとって、「否決した自民党は農民の敵だ」とでも言うのだろうが、これは「なんでも反対」の社民党より悪質な偽装ポピュリズムである。