野党4党は、偽装請負で行政指導を受けたキヤノンの御手洗会長(日本経団連会長)を国会に参考人招致することを決めた。彼らは「格差社会」の原因が小泉内閣の「市場原理主義」にあるとの主張にもとづいて御手洗氏を攻撃するものと思われるが、当ブログでたびたび指摘してきた通り、これは経済学の基本的なロジックも理解しない誤りである。
もちろんキヤノンが違法行為をしたこと自体は、批判されてしかるべきである。しかし、その法律が労働実態に合わないものだとすれば、法律を改正することも視野に入れて考えるべきだ。野党が「開き直りだ」と問題にしている御手洗氏の経済財政諮問会議における発言は、次のようなものだ。
野党は御手洗氏をつるし上げて、「労働者はすべて正社員にしろ」とでも主張するのだろうか。もしそういうことをしたら、正社員は解雇が事実上不可能なので、企業は忙しくなったら正社員に残業させ、新たな採用はしないだろう。結果として、マクロ経済的には労働需要が低下して失業率が上がり、派遣や請負で労働していた人々の多くは職を失うだろう。また御手洗氏もいうように、国内の規制が強ければ、業務を海外にアウトソースして空洞化が進むだけだ。
これが経済学の教科書の最初に書いてある「需要と供給の法則」である。雇用規制を強化すると労働需要が低下し、失業者の雇用機会を奪って、結果的には格差は拡大する。日本より解雇規制の強いフランスの失業率は、10%を超えている。偽装請負やフリーターやニートを生み出している根本的な原因は、正社員だけを「正しい雇用形態」と考え、労働市場の反応を考えないで労働者の既得権を守る厚労省の近視眼的パターナリズムにあるのだ。
厚労省の考える労働者保護とは、いま雇われている労働者の保護にすぎず、もっとも弱い立場にいる失業者は視野に入っていない。問題は非正規社員を正社員に「登用」することではなく、逆に正社員の解雇制限を弱め、労働市場を流動化して、衰退産業から成長産業への人的資源の再配分を加速することだ。それが主要国で最低に落ちた日本の労働生産性を高め、成長率を引き上げ、労働需要を高めて失業率を下げ、結果的にはすべての労働者の利益になるのである。
社民党や共産党が「階級政党」としてこういう主張をするのはしかたがない。どうせ彼らには何の影響力もない。問題は、次の選挙で政権を取るかもしれない民主党が、こういう社民的パターナリズムに汚染されていることだ。民主党の議員も、当ブログを読んでいるようなので、先日紹介したベッカーの記事をよく読んで、経済学を勉強してほしい。
追記:弾さんからTBがきたが、引用部分が違うんじゃないだろうか。雇用規制を強化したら失業率が上がることは、実証的にも間違いない。問題は「正社員の解雇制限を弱めたら、労働市場が流動化する」かどうかで、これについては、おっしゃるようにES細胞(単純労働者)については効果がある(弾力性が高い)が、熟練労働者ではむずかしい。しかし最近は、研究職でも契約ベースの雇用が増えている。現実には、そうして徐々に多様化していくしかないだろう。
(*)条件つきで3年まで延長できる。
もちろんキヤノンが違法行為をしたこと自体は、批判されてしかるべきである。しかし、その法律が労働実態に合わないものだとすれば、法律を改正することも視野に入れて考えるべきだ。野党が「開き直りだ」と問題にしている御手洗氏の経済財政諮問会議における発言は、次のようなものだ。
請負は、請負事業者が全部自分で労働者をトレーニングして、何かの仕事を請け負う。その場合、受け入れ先の人はいろいろ指揮命令ができない。これは当たり前のことだと思う。一方で、派遣は、ただ単純に派遣して、派遣先で監督や訓練をしてもらおうということになっている。これも問題ない。派遣労働者は1年以上(*)雇用すると正社員にしなければならないなどの規制があるので、経営者はそういう制限のない請負契約を使う。しかし労働実態としては、請負契約の労働者が受け入れ先に常駐して普通の社員と同じように働いていることが多い。これが「請負契約を装った人材派遣」であり職業安定法違反だ、と朝日新聞がキャンペーンを張り、厚労省がキヤノンなどに行政指導したものだ。
ところが、請負の方が中小企業に多いため、例えばAという会社に行って請け負う、それからまたBに行って違う職種で全部請け負うような場合がある。その場合、現実には、会社の職種に応じた訓練を請負事業者が全て行うことはかなり難しい。ところが、受け入れた先で指揮命令してはいけないという中に、いろいろ仕事を教えてはいけないということも勧告で入っている。そこに矛盾がある。(強調は引用者)
野党は御手洗氏をつるし上げて、「労働者はすべて正社員にしろ」とでも主張するのだろうか。もしそういうことをしたら、正社員は解雇が事実上不可能なので、企業は忙しくなったら正社員に残業させ、新たな採用はしないだろう。結果として、マクロ経済的には労働需要が低下して失業率が上がり、派遣や請負で労働していた人々の多くは職を失うだろう。また御手洗氏もいうように、国内の規制が強ければ、業務を海外にアウトソースして空洞化が進むだけだ。
これが経済学の教科書の最初に書いてある「需要と供給の法則」である。雇用規制を強化すると労働需要が低下し、失業者の雇用機会を奪って、結果的には格差は拡大する。日本より解雇規制の強いフランスの失業率は、10%を超えている。偽装請負やフリーターやニートを生み出している根本的な原因は、正社員だけを「正しい雇用形態」と考え、労働市場の反応を考えないで労働者の既得権を守る厚労省の近視眼的パターナリズムにあるのだ。
厚労省の考える労働者保護とは、いま雇われている労働者の保護にすぎず、もっとも弱い立場にいる失業者は視野に入っていない。問題は非正規社員を正社員に「登用」することではなく、逆に正社員の解雇制限を弱め、労働市場を流動化して、衰退産業から成長産業への人的資源の再配分を加速することだ。それが主要国で最低に落ちた日本の労働生産性を高め、成長率を引き上げ、労働需要を高めて失業率を下げ、結果的にはすべての労働者の利益になるのである。
社民党や共産党が「階級政党」としてこういう主張をするのはしかたがない。どうせ彼らには何の影響力もない。問題は、次の選挙で政権を取るかもしれない民主党が、こういう社民的パターナリズムに汚染されていることだ。民主党の議員も、当ブログを読んでいるようなので、先日紹介したベッカーの記事をよく読んで、経済学を勉強してほしい。
追記:弾さんからTBがきたが、引用部分が違うんじゃないだろうか。雇用規制を強化したら失業率が上がることは、実証的にも間違いない。問題は「正社員の解雇制限を弱めたら、労働市場が流動化する」かどうかで、これについては、おっしゃるようにES細胞(単純労働者)については効果がある(弾力性が高い)が、熟練労働者ではむずかしい。しかし最近は、研究職でも契約ベースの雇用が増えている。現実には、そうして徐々に多様化していくしかないだろう。
(*)条件つきで3年まで延長できる。