フリーターの告発「『丸山眞男』をひっぱたきたい」をめぐって始まった議論は延々と続き、コメントも3つの記事の合計で400を超えた。なぜ「就職氷河期」が起こり、10年以上も続いたのか、こういう状況をどうすれば是正できるのか、についていろいろな意見が出たが、ここで私なりの感想をまとめておく。
まず「格差が拡大したのは小泉政権の市場原理主義のせいだ」という俗説は、まったく誤りである。正社員の求人は、1991年の150万人をピークとして翌年から激減し、95年には退職とプラスマイナスゼロになっている。その原因がバブル崩壊による長期不況であることは明らかだ。
したがって福田首相のいう「現在の格差は構造改革の影の部分」だから、改革の手をゆるめようという政策も誤りである。むしろ「景気対策」と称して行なわれた90年代の公共事業のバラマキが生産性を低下させ、かえって雇用環境を悪化させた疑いが強い。したがって「都市と地方の格差」が最大の問題だというアジェンダ設定も誤りである。
実質成長率と人口移動(1955年=100とする)
出所:増田悦佐『高度経済成長は復活できる』
上の図は、実質GDP成長率と大都市圏への人口移動(純増)を比較したものだが、1980年前後を除いて見事に一致している。多くの経済学者が、この「1970年問題」を重視し、日本の成長率低下の最大の原因は石油ショックではなく、70年代から田中角栄を初めとして「国土の均衡ある発展」を理由にして進められた社会主義的な「全国総合開発計画」によるバラマキで、都市(成長産業)への労働供給が減少したためだ、という説が有力である。
さらに1970年代とほぼ同じ動きが、90年代に見られる。ここで成長率が激減しているのは、もちろんバブル崩壊が原因だが、同時にそれに対して行なわれた100兆円以上の「景気対策」によって地方で大規模な公共事業が行なわれたため、戦後初めて都市から地方へ人口が「逆流」している。これが不況をかえって長期化させたのだ。
90年代のくわしい実証研究でも、90年代に各部門の雇用が減る一方、建設業だけが増えており、こうした部門間の人的資源配分のゆがみによって労働生産性が大きく低下したことが示されている。わかりやすくいうと、実質的につぶれた銀行や不動産・建設などの「ゾンビ企業」を大蔵省が「官製粉飾決算」で延命するとともに、失業者が生産性に寄与しないハコモノ公共事業に吸収されたため、労働生産性が低下したのだ。
こうした労働供給の減少と労働生産性の低下が不況を長期化させ、しかも「日本的雇用慣行」によって社内失業者を守るために新卒の採用をストップしたことが「就職氷河期」をもたらした。この人的資源配分の不均衡は、景気が最悪の事態を脱した現在でも続いており、日本の労働生産性は主要先進国で最低だ。この意味で、まだ氷河期は終わっていないのである。
だからマクロ的にみて最も重要なのは、労働市場を流動化させて人的資源を生産性の高い部門に移動し、労働生産性を上げることだ。そのためには、流動化をさまたげている正社員の過保護をやめるしかない。労働者派遣法には派遣労働者を一定の期間雇用したら正社員にしろといった規定があるが、これは結果的には企業が派遣労働者の雇用を短期で打ち切ったり「偽装請負」を使ったりする原因となるだけだ。労働市場の反応を考えない「一段階論理」の設計主義による労働行政が、結果的には非正規労働者の劣悪な労働環境を固定化しているのである。
問題は、非正規労働者を正社員に「登用」することではなく、労働市場を競争的にすることだ。ゾンビ企業などに「保蔵」されている過剰雇用を情報・金融・福祉・医療といった労働需要の大きいサービス業に移動すれば、成長率を高め、失業率を減らすことができる。そのためには労働契約法で雇用を契約ベースにし、正社員の解雇条件を非正社員と同じにするなど、「日本的ギルドの解体」が必要である。また「都市と地方の格差」を是正するよりも、逆に都市への人口移動を促進する必要があり、農村へのバラマキをやめて地方中核都市のインフラを整備すべきだ。
まず「格差が拡大したのは小泉政権の市場原理主義のせいだ」という俗説は、まったく誤りである。正社員の求人は、1991年の150万人をピークとして翌年から激減し、95年には退職とプラスマイナスゼロになっている。その原因がバブル崩壊による長期不況であることは明らかだ。
したがって福田首相のいう「現在の格差は構造改革の影の部分」だから、改革の手をゆるめようという政策も誤りである。むしろ「景気対策」と称して行なわれた90年代の公共事業のバラマキが生産性を低下させ、かえって雇用環境を悪化させた疑いが強い。したがって「都市と地方の格差」が最大の問題だというアジェンダ設定も誤りである。
実質成長率と人口移動(1955年=100とする)
出所:増田悦佐『高度経済成長は復活できる』
上の図は、実質GDP成長率と大都市圏への人口移動(純増)を比較したものだが、1980年前後を除いて見事に一致している。多くの経済学者が、この「1970年問題」を重視し、日本の成長率低下の最大の原因は石油ショックではなく、70年代から田中角栄を初めとして「国土の均衡ある発展」を理由にして進められた社会主義的な「全国総合開発計画」によるバラマキで、都市(成長産業)への労働供給が減少したためだ、という説が有力である。
さらに1970年代とほぼ同じ動きが、90年代に見られる。ここで成長率が激減しているのは、もちろんバブル崩壊が原因だが、同時にそれに対して行なわれた100兆円以上の「景気対策」によって地方で大規模な公共事業が行なわれたため、戦後初めて都市から地方へ人口が「逆流」している。これが不況をかえって長期化させたのだ。
90年代のくわしい実証研究でも、90年代に各部門の雇用が減る一方、建設業だけが増えており、こうした部門間の人的資源配分のゆがみによって労働生産性が大きく低下したことが示されている。わかりやすくいうと、実質的につぶれた銀行や不動産・建設などの「ゾンビ企業」を大蔵省が「官製粉飾決算」で延命するとともに、失業者が生産性に寄与しないハコモノ公共事業に吸収されたため、労働生産性が低下したのだ。
こうした労働供給の減少と労働生産性の低下が不況を長期化させ、しかも「日本的雇用慣行」によって社内失業者を守るために新卒の採用をストップしたことが「就職氷河期」をもたらした。この人的資源配分の不均衡は、景気が最悪の事態を脱した現在でも続いており、日本の労働生産性は主要先進国で最低だ。この意味で、まだ氷河期は終わっていないのである。
だからマクロ的にみて最も重要なのは、労働市場を流動化させて人的資源を生産性の高い部門に移動し、労働生産性を上げることだ。そのためには、流動化をさまたげている正社員の過保護をやめるしかない。労働者派遣法には派遣労働者を一定の期間雇用したら正社員にしろといった規定があるが、これは結果的には企業が派遣労働者の雇用を短期で打ち切ったり「偽装請負」を使ったりする原因となるだけだ。労働市場の反応を考えない「一段階論理」の設計主義による労働行政が、結果的には非正規労働者の劣悪な労働環境を固定化しているのである。
問題は、非正規労働者を正社員に「登用」することではなく、労働市場を競争的にすることだ。ゾンビ企業などに「保蔵」されている過剰雇用を情報・金融・福祉・医療といった労働需要の大きいサービス業に移動すれば、成長率を高め、失業率を減らすことができる。そのためには労働契約法で雇用を契約ベースにし、正社員の解雇条件を非正社員と同じにするなど、「日本的ギルドの解体」が必要である。また「都市と地方の格差」を是正するよりも、逆に都市への人口移動を促進する必要があり、農村へのバラマキをやめて地方中核都市のインフラを整備すべきだ。