先週のICPFセミナーの白田秀彰氏の話は、まだ論文になっていないようなので、議事録を紹介しておく。彼の2階建て改革案は、簡単にいうと
  1. 1階部分、すなわち文化目的の作品は普通の著作権法で規制し、これとは別に2階部分の(仮称)制作組合法をつくる。これは商業作品に関わる各主体(隣接権者を含む)が、その経済的利益を最大化することを目的とする。現在、商業作品制作においてみられる「制作委員会」方式を法定化し促進する。あるいは作品そのものに法人格を与えて、株式会社と類似の運用を行う。
  2. 受益証券を売買する市場を創出することで、商業作品制作の資金調達・リスク分散・利益配分を市場機構を用いて行う。この場合、 取引の客体を確定する必要から有料の登録が必須となる。
  3. 創設されるのは、制度利用者の申請に応じて与えられる国の制度上の恩典であって権利ではないので、これを利用するかどうかは任意である。制度利用においては、登録更新を続ける限り、国の恩典付与が続くものとする。
  4. 作品の2次利用について、それを利用しようとする者と組合との協議が整わない場合、組合は法律の定める料率による使用許諾手続きに同意するものとする。
この案のポイントは、ベルヌ条約のおかげで自由に変えられない著作権法の縛りを逃れるために、著作権法とはまったく別の法律をつくるという点だ。しかし、これは恩典(オプション)なので、企業が自発的に著作権法ではなく「2階」を使うぐらい有利でなければならない。この点で、問題は4だろう。これは実質的な強制許諾であり、その料率が法律で決まるとなると、大ヒット作は「2階」に出てこず、『ハリー・ポッター』などは料率に制限のない「1階」で扱われるのではないか。この料率の決定が許諾権をアンバンドルする場合の難問で、包括ライセンスでもアポリアになっている。

これより簡単なのは、レッシグなども提案している単純な登録制度である。「登録制度は(無方式主義の)ベルヌ条約違反だ」などと嘘をつく人もいるが、ベルヌ条約は輸出入する場合に適用されるもので、国内で使う場合には問題ない。文芸家協会などがリップサービスとして提案しているデータベースも、「このデータベースに登録していない作品はパブリックドメインとみなす」という規定をつくれば、すぐ普及するだろう。

根本的な問題は、期限延長問題にみられるように、各国が競って著作権や特許権を強化する重商主義的な状況が生まれていることだ。これは一種の「囚人のジレンマ」なので、個々の政府にとっては権利強化が合理的な選択にみえる。こういう状況を克服するためには、かつてアダム・スミスが重商主義を批判して『国富論』を書いたように、保護貿易は世界全体としては非効率な結果になるということを明らかにし、「情報の自由貿易」の原則を確立する必要があろう。