遠藤農水相が辞任した。その原因は3年前の100万円あまりの補助金水増しで、辞任するほどの大事件のようにはみえないが、この問題の根は深い。象徴的なのは、会計検査院から2度も指摘を受けながら、返還していなかったことだ。つまり、この手の不正は、それぐらい当たり前なのだ。

私はかつて、「農民ひとりあたり補助金受給日本一」という愛媛県の農協を取材したことがある。その農協(豪華な高層ビル)は、二つの町の境界をまたいで建っており、すべての補助金を二重取りしていた。組合長は、いかに制度の裏をかいて補助金をだまし取るかのテクニックを自慢げに語ってくれた。補助金制度が、もう普通の人には理解できないぐらい複雑化しているため、役所にもチェックできないのだ。

この複雑怪奇で政治的利権のからんだ制度を「改革」することは不可能である。長谷川熙氏もいうように、農水省そのものをいったん解体し、ゼロからやり直すしかない。その方法は、具体的には次のようなものだ:
  • 農水省は廃止し、いまの大臣官房企画室などごく一部の機能をもつ「農業政策庁」を設置する。現在の職員はいったん解雇し、なるべく多くの民間人を採用する。
  • 農業政策庁の機能は、農業のグローバル化に対応した食料の安定供給と安全確保である。そのためには、オーストラリアやカナダなどの農業国とのFTAやEPAの締結を積極的に進め、穀物・食肉などについて品質管理も含む長期契約を結ぶ。
  • 現在の農地の集約や中核農家の養成、雇用対策などの業務は、すべて地方自治体に移管する。
  • 水産庁は独立させ、林野庁は廃止する。林野行政は環境庁に移管する。
これが長谷川案だが、私はGDP比で1%にも満たない農業を独立の官庁で所管する必要はないと思う。かつてNHKにも「農林水産番組部」というのがあって「明るい農村」という番組を長年やっていたが、農業の衰退にともなって「農林水産産業部」となり、「科学産業部」、最後は「サイエンス部」になって農業番組というジャンルは消滅した。同様の発想でいえば、農業は経産省のどこかの「課」にするぐらいが妥当なところだろう。最終的には、経産省も廃止することが望ましい。

追記:4日の朝日新聞で、この種の問題を分析した名著『補助金と政権党』が紹介されているが、その著者、広瀬道貞氏は今、民放連の会長として地デジへの補助金を総務省に要求している。