99779979.jpg本書は、冷戦についての権威がこれまでの研究を一般向けにまとめた、いわば冷戦についての教科書である。ちゃんとした書評は、週刊ダイヤモンド(9/17発売)に書くので、それに関連して先週のブッシュ演説についての感想をひとこと:

この演説は、多くのブログで「クリントンの『不適切な関係』についての演説と並ぶ歴史的お笑い演説」との評価が定着したようだ(Slate)。ただ、本書との関連でいうと気になるのは、ブッシュが(というよりはアメリカの情報機関が)冷戦の教訓をいまだに正確に分析していないと思われることだ。

ブッシュ演説で笑えるのは、冒頭から真珠湾を持ち出して、日本軍とアルカイダを同一視し、日本には"shinto"というイスラム教なみの狂信的な国家宗教があり、占領後の抵抗は容易ではないと思われたが、実際には日本人はマッカーサーを熱狂的に歓迎した、とのべている部分だ。これはイラク開戦前に彼が「フセイン政権が崩壊したら、イラク国民はわれわれを歓迎するだろう」と言っていたのと同じだが、その予測が完全に外れたあと同じことをいっているのは、どういう神経なのか。日本人をバカにしているのか。

本書では、冷戦期に行なわれた戦争をいくつかの類型に分類しているが、印象的なのは、国家の規模と戦後処理の困難には関係がないということだ。ベトナムのような小国では、アメリカの軍事力をもってすれば傀儡政権の維持は容易だと思われたが、政権に国民の支持がないため長期にわたる内戦が続き、最後は政権が崩壊してしまった。これをタイプVとしよう。

他方、ブッシュが誇らしげにあげる日本のように、相手が大国であっても、その政権基盤がすでに空洞化してしまっている場合には、政権交代はあっけないほど簡単だった。これをタイプJとすると、冷戦の終焉で(米政府を含む)だれもが驚いたのは、ほとんどの社会主義国がタイプJだったことだ。恐れられていた軍事的衝突は、旧ソ連の内戦などをのぞいては、ほとんど起こらなかった。

どっちのタイプかは、ほとんど政権が崩壊した瞬間に、テレビに映る人々の表情でわかる。その基準からいえば、イラクは明らかにタイプVである。著者はイラク戦争には言及していないが、あまりにも有名なクラウゼヴィッツの言葉を繰り返し引用している:戦争とは、政治の手段であって目的ではない。この言葉を真に理解した政治的指導者だけが、戦争を成功のうちに終わらせることができるのだ。