きのうのICPFセミナーのスピーカーは、三田誠広氏だった。もう少し率直な意見交換を期待していたのだが、自分で信じていないことを長々としゃべるので、議論も噛みあわなかった。そのちぐはぐな質疑応答の一部を紹介しておこう:
版元の利潤は、著作権で守る必要はない。たとえば岩波書店は、夏目漱石の本で今でも利潤を上げている。もしも著作権が死後200年ぐらいに延長されたら、岩波書店は文庫を出さないで高価な全集だけを出してもうけることができるだろう。しかしこうした独占は有害で、独禁法でも原則として禁止されているものだ。
三田氏は、宮沢賢治の例をあげて、彼が生前には1円の印税ももらえなかったが、その遺族は、松本零士氏の「銀河鉄道999」などのおかげで大きな収入があるという。しかし、これは賢治のインセンティブにならない不労所得である。
さらに悪いことに、彼はそれを100%嘘だとは思っていない。小説家という職業が特権的な存在だった時代の錯覚をまだ持ち、青空文庫や国会図書館に協力することで「芸術家の尊い使命」を果たしているつもりなのだ。しかし幸か不幸か、彼の小説は彼の死ぬ前にカタログから消えるだろう。
(*)著作権とリスペクトに強いて関係を求めるとすれば、著作者人格権だが、これは著者の死によって消滅するので、死後50年の問題とは無関係。
問「これまで文芸家協会は、著作権の期限を死後50年から70年に延長する根拠として、著作権料が創作のインセンティブになると主張してきたが、今日のあなたの20年延ばしても大した金にはならないという発言は、それを撤回するものと解釈していいのか?」リスペクトなどというものは、著作権とは何の関係もない(*)。私たちは、立派な家を建てる大工やおいしい料理をつくる料理人にリスペクトを抱くが、彼らの作品は著作権で守られてはいない。彼らの作品が売れることで、リスペクトは表現されるからだ。要するに三田氏が守ろうとしているのは、著作者のインセンティブでもリスペクトでもなく、版元の独占利潤なのだ。
三田「私は以前から、金銭的なインセンティブは本質的な問題ではないと言っている。作家にとって大事なのは、本として出版してもらえるというリスペクトだ。」
問「しかし出版してもらうことが重要なら、死後50年でパブリックドメインになったほうが出版のチャンスは増えるだろう。」
三田「しかしパブリックドメインになったら、版元がもうからない。」
問「そんなことはない。夏目漱石も福沢諭吉もパブリックドメインだが、全集も文庫も出て出版社はもうかっている。リスペクトもされているじゃないか。」
三田「・・・」
版元の利潤は、著作権で守る必要はない。たとえば岩波書店は、夏目漱石の本で今でも利潤を上げている。もしも著作権が死後200年ぐらいに延長されたら、岩波書店は文庫を出さないで高価な全集だけを出してもうけることができるだろう。しかしこうした独占は有害で、独禁法でも原則として禁止されているものだ。
三田氏は、宮沢賢治の例をあげて、彼が生前には1円の印税ももらえなかったが、その遺族は、松本零士氏の「銀河鉄道999」などのおかげで大きな収入があるという。しかし、これは賢治のインセンティブにならない不労所得である。
問「松本氏は模倣を非難するが、『銀河鉄道』は宮沢賢治の模倣じゃないか。」全体としてわかったのは、三田氏は出版社やJASRACに利用されているロボットではないということだ。彼は、自分が作家としてはもう終わったことを自覚し、著作権ロビイストとして政治的に生き延びようとしているのだ。彼のスピーチの大半は、きわめて瑣末な著作権処理の事務的な手続き論に費やされた。たしかに、これをJASRACがいうより「作家」の肩書きをもった三田氏がいうほうが、文化庁の官僚が使いやすいだろう。
三田「松本氏のように原作の価値を高める模倣はいいが、悪趣味なパロディはよくない。」
問「いい模倣か悪い模倣かは、だれが決めるのか?」
三田「遺族だ。」
問「遺族が死んだら、誰が決めるのか?」
三田「・・・」
問「このように著作権というのは、他人の創作活動を制限する。ブログには数千万人の著作者がいて、YouTubeには数千万本のビデオクリップがあるが、それを著作権訴訟が脅かしている。わずか数千人の小説家の業界エゴで、著作権法の強化を求めるのは無責任ではないか。」
三田「小説とブログは違う。われわれには芸術家として、文化を後代に伝える義務がある。」
さらに悪いことに、彼はそれを100%嘘だとは思っていない。小説家という職業が特権的な存在だった時代の錯覚をまだ持ち、青空文庫や国会図書館に協力することで「芸術家の尊い使命」を果たしているつもりなのだ。しかし幸か不幸か、彼の小説は彼の死ぬ前にカタログから消えるだろう。
(*)著作権とリスペクトに強いて関係を求めるとすれば、著作者人格権だが、これは著者の死によって消滅するので、死後50年の問題とは無関係。


