安倍首相は、年金・医療保険に関する情報を総合的に把握するための「社会保障番号」を導入する方針を表明した。かつて住基ネットのときはあれほど「国民総背番号」に騒いだメディアが、今度は当然のようにこれを報じている。もう忘れた人も多いようなので、当時どれほどヒステリックな騒ぎが起こったかを思い出してみよう。
  • オンライン化にともない「国民総背番号」「納税者番号」などの問題に結びつけることは、社会保険庁としては考えていない。――社会保険庁と自治労国費協議会の確認事項(1979)
  • グリーンカードは"国民総背番号制"で、これを実施すれば国民のプライバシーが侵害され、管理を嫌う巨大な資金が海外に流出する。――金丸信・自民党元副総裁(1983)
  • 国民に対する権力の監視の目を厳しくする法案として民主党が盗聴法とともに問題としているものに、住民基本台帳法、いわゆる国民総背番号法があります。――枝野幸男・民主党元政調会長(1999)
  • [国民総背番号がなくて]現状の非効率な行政システムがいつまでも続いても、多くの人は一向にかまわないのです。――山形浩生(2001)
  • 牙をむく国民総背番号制で裸にされるあなたの私生活――臺宏士・毎日新聞記者(2001)
  • 個人の統一的管理システムの構築を認めない。――日弁連「 自己情報コントロール権を情報主権として確立するための宣言」(2002)
  • 私は番号になりたくない。――櫻井よしこ(2002)
おわかりだろう。最初に背番号に反対したのは「プライバシー」に配慮する人々ではなく、なるべく仕事をしたくない社保庁の労組であり、いったん成立したグリーンカード(少額貯蓄の名寄せ制度)を廃止に追い込んだのは、裏金を把握されたくない政治家だったのである。それに国民の不安を煽る野党が迎合し、無知なメディアや評論家ばかりか、法律家まで合流して「監視社会」に反対する大合唱が起こり、背番号制度は抹殺されてしまった。

これが官僚のトラウマとなって、国民ひとりに一つの番号をつける「ナショナルID」はタブーとなり、各省庁でばらばらに番号化が始まった。基礎年金番号は自治労のサボタージュで5000万件もの未処理が残り、住基ネットの機能は旧自治省の事務合理化に限定されたため無用の長物となり、納税者番号はたびたび政府税調で答申されながら先送りされ、結果として膨大な脱税と年金の支給不足が生じた。

また今度も、住基データとは別に社会保障番号が導入される方向で、それとは別に納税者番号が検討されているが(*)、このように官庁の縦割りでバラバラに国民の個人情報を管理することは、セキュリティの点でもコストの点でも問題がある。厳重に(年間200億円もかけて!)管理・警備されている住基データを抜本的に改正し、各官庁の共有データとして社会保障にも納税にも利用するほうが効率的だ。

(*)実は税務署の内部では、すべての納税者に番号が振られている。KSKという税務署のシステムはそれで動いているのだが、この納税者番号は利子や配当などの総合課税には使えないので、捕捉率の向上には役立たない。