
リクルートが83人もの人に未公開株をばらまいたのが「賄賂」だというのはかなり無理な解釈で、これは兜町ではごく普通の慣行だった。だから警察も立件を断念したし、検察も動かなかったが、朝日新聞が独自の調査報道で問題を発掘した。1988年9月に、リクルートコスモスの松原社長室長が楢崎弥之助代議士に現金500万円を渡して口封じをしようとした一部始終を日本テレビが隠し撮りするという事件が起きて、一挙に事件化した。
その後は、譲渡先リストにある政治家や官僚などの行動を検察が洗い出し、職務権限で引っかかる者を片っ端から立件するという方式だった。しかし、このように普通のプレゼントを「後出しジャンケン」で賄賂にしたてるのは、かなり無理があった。たとえばNTTルートでは、リクルートがNTT経由で買ったクレイのスーパーコンピュータが問題とされた(私の撮った映像が今でも資料映像として使われる)が、本書も指摘するように、客が売り手に賄賂を出すというのはおかしい。
だが自戒をこめていうと、当時のメディアは、検察をまったく批判しなかった。それは、この種の事件を立件することがいかにむずかしいかを知っているからだ。政治家のスキャンダルは、永田町には山ほど流れているが、事件になるのはそのうち100件に1件ぐらいしかない。特にリクルートのように「ブツ」の出てくる事件は非常に珍しいので、やれるときは徹底的にやって「一罰百戒」をねらうことになりがちだ。
だからリクルート事件の大部分が検察の描いた「絵」にあわせたでっち上げだという本書の指摘は当たっているが、根本的な問題は贈収賄の摘発が極度にむずかしい現在の法律なのだ。特に「職務権限」の要件がきびしいため、かつての松岡利勝のように陣笠はどんな露骨な利益誘導をやっても罪に問われない。検察の暴走を防ぐためにも、立法的な改革が必要だと思う。