コメントで教えてもらったが、総務省はIPアドレスの「枯渇対策会議」を今月中に立ち上げるそうだ。アドレスの配分を検討するのはいいが、それが枯渇するという事実認識は間違いである。IPv4のアドレスは約43億個、全世界のユーザー(約11億人)ひとり当たり4個もある。これに対して、現在のホスト数は約4億3000万なので、アドレスはまだ1割しか使われていないのだ

また、IPv6は「枯渇」の対策にはならない。v6サイトはv4サイトからは見えないので、v6は実際には携帯電話などの(v4サイトから直接アクセスする必要のない)ローカルなアドレスとしてしか使えない。総務省の委託調査でも、v6のトラフィックはインターネット全体の0.1%以下で、最近は減少している。またIPv6普及・高度化推進協議会の調べでも、v6を商用サービスで提供するISPは、200社中わずか1社という状態だ。

本質的な問題は、なぜ全アドレスの1割しか使われていないのに「枯渇」が問題になるのかということだ。これは山田肇氏と私が5年前に書いたように、初期にアドレスを大きなブロックで配ったため、そのの配分がきわめて歪んでいることが原因だ。特にアメリカでは、たとえばMITがクラスAを1ブロック(1670万個)まるごと持っている(これは中国全体とほぼ同じ)ように、大学や企業が莫大なアドレスを割り当てられたまま使っていない。

だから問題を解決する方法は、簡単である。未使用のアドレスを、オークションで再配分すればいいのだ。こう提案すると「公共的なアドレスを私有財産として売買するのはけしからん」という類の反論があるが、経済学の通常の定義でいえば、競合的排除可能なアドレスは私的財であり、市場でもっとも効率的に配分できる。ICANNが制度設計をしてはどうか――と前から提案しているのだが、聞いてくれない。だれかオークションの専門家がやってみませんか?

追記:お約束どおり、小飼弾氏からTBがついた。「IPでは、ネットワークの指定を2のベキ乗でまとめないと出来ないのだ」というのはおっしゃる通りだが、今はその必要な量(を超えて最小の2n)よりはるかに大きなブロックを取っているから「枯渇」が起こるのだ。たとえばBBNが取っている3ブロックのクラスAを再配分するだけで、アジア全域の需要は当分まかなえる。

私はIPv6の理想に反対するものではないが、それが代替策にならないという事実を認めないと、現実的な対策はとれない。デュアルスタックではv4のアドレスもとるので、「枯渇」の対策にはならない。

アドレスを再編するとネットワークの再構築が必要になるというのもその通りだが、市場で取引すればそういうコストも織り込んで価格がつく。小飼氏もいうように、ドメイン名は堂々と売買されているのに、アドレスの売買に抵抗が強いのは不可解だ。

「全世界の人口の方がIPv4アドレスよりも少ない」というのは誤記だろう。全世界の人口のほうがアドレスより多いが、世界の人がすべてグローバルアドレスでインターネットに接続する必要はないし、幸か不幸かそういう日は来ない。