バージニア工科大学の殺人事件は、銃規制についての論争を再燃させそうだ。しかしFTも報じるように、アメリカでは逆に先月、銃規制の強化を違法とする判決が連邦高裁で出るなど、規制が強化される見通しはない。これはよくいわれるようにNRAのロビー活動や憲法修正第2条の存在もさることながら、世論調査も必ずしも銃規制に好意的ではないのだ。

その理由は、合理的に理解できる。アメリカのようにすでに銃が社会に広く行き渡ってしまった社会では、自分だけが銃を持たないと危険だからである。これはゲーム理論でおなじみの囚人のジレンマで、全員が銃を持たないという最適解がナッシュ均衡ではないとき、自分だけが持たない最悪の状態よりは全員が持つ次善の状態(ナッシュ均衡)を選ぶことは理解できる。

実証的な研究でも、銃規制の効果は自明ではない。有名な研究としては、Lottの"More Guns, Less Crime"という大論争になった本がある。これは銃規制の緩和によって殺人事件が減ったとする実証研究で、当然のことながらNRAはこの研究を大歓迎したが、これを反証する論文もたくさん出た。しかし、そのまとめをみても、銃規制の効果はあまり明快ではない。

ゲーム理論が正しいとすれば、民主党が提案しているようなゆるやかな銃規制は、かえって犯罪を増やすおそれが強いし、世論の支持も得られないだろう。やるなら憲法を改正して軍・警察以外の銃所持を全面的に禁止し、一挙に徹底的な「銃狩り」をやって、国民全員を強制的に最適解に閉じ込めるしかない。これはアメリカにとって「テロとの闘い」よりもはるかに重要だが困難な闘いだろう。