一部にコアなファンのいるゲーム理論の教科書"Fun and Games"の新版。内容は大幅に変わっているが、『不思議の国のアリス』をモチーフにしたしゃれた構成は、もとのままだ。説明はやさしくおもしろく書いてあるが、かなり癖があるので、初心者向きではない。むしろギボンズのような標準的な(無味乾燥の)教科書を読んだ学生が、ゲーム理論の広がりを実感するための副読本と考えたほうがいいだろう。

新たに協力ゲーム、不完備情報、メカニズムデザイン、オークションなどの章ができたが、進化ゲームは削除された。著者は進化ゲームで重要な業績を上げ、"Fun and Games"は進化ゲームを最初に取り入れた教科書として便利だったのだが、それがまったくなくなるというのは、学界の雰囲気を反映しているのだろうか。それとも進化ゲームを厳密に扱うのは初等的な数学では無理なので落とした、という教育的な理由だろうか。

いずれにしても、"Fun and Games"も、いまだにベストの教科書とされるFudenberg-Tiroleも、古典とよばれるMyersonも1991年で、それ以後もこれらを超える教科書がほとんど出てこないというのは、偶然とは思えない(*)。こういう教科書が書かれたのは、1980年代にBinmoreのいうeductiveなゲーム理論がほぼ完成したためで、90年代には進化ゲームがフロンティアと考えられていた。ところが16年たって、進化ゲームを削除した教科書が出てくるというのは、ゲーム理論の行き詰まりを象徴しているようだ。

(*)例外はOsborne-Rubinsteinぐらいだが、これも1994年。進化ゲーム理論の教科書としても、いまだに1995年のWeibullが標準のようだ。