電力線通信(PLC)がアマチュア無線の電波を妨害するとして、アマ無線ユーザーがPLC解禁の取り消しを求めて行政訴訟を起こすという。この問題については、もう10年近くいろいろな検討が行われてきた。実用上は問題がないことはわかっていたが、アマ無線側の主張する「航空・船舶無線で、もしものことがあったらどうするのか」などの脅し文句で解禁が遅れていた。

日本のアマ無線は55万局あるが、実際に稼動しているのはその半分以下と見られている。ハム人口はここ10年で半減し、平均年齢は50歳以上だ。それなのに、アマ無線には60MHz近い周波数が割り当てられている。これは数千万人が加入する携帯電話1社分とほぼ同じだ。特に1260-1300MHz帯はほとんど使われていないが、携帯電話なら4社ぐらい収容できる帯域だ。アマ無線衛星も、これまでに世界中で70も打ち上げられている。

このようにアマチュアの団体が大きな政治力をもっているのは、それが無線技術の生みの親だからである。もともと無線技術は、マルコーニが発明したころにはアマチュアのもので、初期の技術開発はアマチュアによって行われた。日本でも、アマ無線にはNHKより古い歴史がある。日本アマ無線連盟の原昌三会長は、80歳の今も36年間会長を続けている。既得権を無条件で認める電波行政にとっては、100年近い歴史をもつアマ無線は不可侵の世界なのである。

行政訴訟で原告側は、「無線LANなどのインターネット接続が普及し、PLCを解禁する必要性がない」と主張しているが、インターネットで必要なくなったのはアマ無線のほうである。法廷で争えばはっきりするが、彼らのもっている周波数は不可侵の財産権ではなく、5年間の免許で与えられた暫定的な権利にすぎない。免許を更新しないことも、行政の裁量の範囲内である。総務省は、この機会にアマ無線への周波数割り当てを抜本的に見直し、特に1.2GHz帯を開放すべきだ。