経産省の日の丸検索エンジンの正式名称は、「情報大航海プロジェクト」という。その心は、人々が情報の大海で迷わないように針路を示す羅針盤になるということらしい。明日のICPFセミナーでは、これについて経産省の久米さんに話してもらうが、このついでに大航海時代について調べてみた。最初に、この入試問題を解いてみてほしい:
「地理上の発見の時代」という用語は問題があるという理由で、「大航海時代」と言い替えられることがある。「地理上の発見の時代」という用語はどういう理由から批判されると考えるか。50字以内で述べよ。(東京学芸大・1989)
答を50字以内で述べると、「アメリカ大陸には先住民がいたのだから、西洋人が新大陸に到達したことを発見と呼ぶのはおかしい」。つまり大航海時代というのは、「差別語」を避けるためにつくられた言い替えなのである。それでも、この言葉が西洋の自民族中心主義にもとづくことに変わりはない。「大航海」の時代は、先住民からみれば西洋人による「侵略の時代」であり「植民地化の時代」だった。

それよりも問題なのは、このメタファーが、征服すべき「新大陸」の存在はあらかじめわかっており、正確な羅針盤と国家の資金援助さえあれば、コロンブスのような大発見が保証されていると示唆していることだ。重要なのは、大陸を発見することよりもそれを経営することである。初期に新大陸を発見したスペインやポルトガルは、結果的には衰退し、北米はイギリスの植民地になった。それは欧州の戦争でイギリスが勝ち、植民地経営を国内経済に組み込む資本主義というシステムをつくったからである。

情報の海も、ただ大航海するだけでは何の意味もない。グーグルの本質的なイノベーションは、数十億ページを検索する技術ではなく、それによって年間1兆円近い広告収入を上げるビジネスモデルである。検索広告のような「すきまビジネス」がここまで大きくなることは、誰も(おそらくグーグルの創業者たちも)予想していなかった。やみくもに検索の効率を上げているうちに「新大陸」にぶつかっただけだ。

情報大航海プロジェクトも、国営検索エンジンをつくれば、いくらでも検索はできるだろう。しかし重要なのは技術開発ではなく、ビジネスモデルを開発することである。政府が関与すると、収益が上がるかどうかという肝心の問題が検証できない。いまグーグルが行っているのは、かつて物的資源を財産権で囲い込んで収益を上げる資本主義が発見されたように、情報を囲い込まないで持続可能な経済システムが存在するのかどうかという歴史的な実験である。それが存在するのかどうかはあらかじめわからないし、コロンブスのようにインドだと思ったら新大陸だったということもあるかもしれない。

要するにわれわれは、正確な羅針盤さえあれば、あらかじめわかっている答に到達するという意味での「大航海時代」にはいないのである。かつてグーグルがバナー広告を出し抜いたような「破壊的イノベーション」を見つけるには、多くの企業が(一見ばかげた)ビジネスを立ち上げるオプションを拡大し、「多産多死」によって解を見出すしかない。そのための資金調達の改革などのフレームワーク政策も経産省が進めているが、日の丸検索エンジンのようなターゲティング政策は、それと矛盾するものだ。省内でも批判が多いようだから、予算がつく前にちゃんと議論したほうがいいのではないか。

議論に参加したい方は、明日のセミナーにどうぞ。席はまだあります。