TechCrunchで、Peter Jennerが批判されている。彼はピンク・フロイドやクラッシュなどを世に出した大物プロデューサーで、問題の発言はイギリスの音楽業界の著作権法改正への提案にそったものだ。その趣旨は「音楽産業は、このままでは絶滅する。DRMもP2Pで大量にコピーが流通している状況では役に立たないので、ISPや携帯キャリアなどに課金し、それをプールしてミュージシャンに比例配分しよう」というものだ。料金は、TechCrunchによれば、キャリアあたり1ヶ月4ユーロぐらいだという。

たしかに、この提案はかなりずさんで、TechCrunchが「音楽税」だと批判するのもわかるが、正確にいうとこれは税金ではなく、BBCのライセンス料のような私的契約である。しかもJennerの話の重点は、課金よりも包括ライセンス(blanket license)のほうにある(これは私が先日の記事で紹介した「強制ライセンス」と同じものだが、この名前はよくない)。これは1曲ごとに許諾するのをやめて流通は自由にし、大口ユーザーから定額の利用料を取る方式で、放送局では行われているが、それをインターネット配信にも拡大しようというわけだ。

おもしろいことに、音楽産業とは対極の立場にあるEFFが同じような提案をしている(彼らはVoluntary Collective Licensingと呼んでいる)。これは音楽産業がユーザーと集団的な契約を結んで、ひとり毎月5ドル徴収するものだ。アメリカでは、P2Pユーザーは訴訟の脅威にさらされているが、この契約を結ぶことによって訴訟からまぬがれるというわけだ。しかし音楽産業は、この提案に「定額料金は市場メカニズムの否定だ」と反対している。

最大の問題は、こうして集めた著作権料をミュージシャンにどう分配するかということだ。サンプリング調査をして、ダウンロードされた回数に応じて比例配分するということになっているが、そういうしくみは放送局でも機能したことがない。この点は、Jennerも「巨大なブラックボックス」ができるおそれがあることを認めているし、EFFも「透明性が重要だ」としかいっていない。日本では、これをJASRACがやるようでは、だれも信用しないだろう。

ただ重要なのは、音楽産業の側から許諾権をみずから放棄する提案が出てきたことだ。経済学的にいうと、著作権はコントロール権とキャッシュフロー権にわけられるが、ビジネスにとって重要なのは後者であって、前者は必要条件ではない。許諾権を放棄することによって多くのコンテンツが流通し、その結果多くのキャッシュが得られるならば、そのほうがビジネスとしては賢明だろう。この種の提案の最大の難点は、音楽産業が乗ってこないことだったが、P2Pが彼らを追い込んだ結果、状況が変わってきたわけだ。EFFのようなユーザー側からの提案との接点はあると思う。

追記:同様の提案は、ハーバード大学のバークマン・センターが以前から行っており、William Fisherの本にまとめられている。しかし、これは文字どおり政府が「音楽税」をとるもので、賛同者は少ない。