WSJによれば、VerizonがYouTubeと提携して、携帯電話やテレビでクリップを配信するという。Verizonといっても日本ではなじみがないが、AT&Tが分割されてできた地域電話会社(ILEC)が合併をくり返してできた社員21万人の巨大企業である。だからこのニュースは、日本でいえばNTT東日本が2ちゃんねると提携するような、ちょっと考えられない組み合わせだ。

この記事が出た7日、ちょうど私はワシントンでVerizonのエコノミストと話していて、このニュースを彼から聞いた。私が「YouTubeは訴訟まみれになるのではないか?」と質問すると、彼は「RIAAと当社の(P2Pをめぐる)訴訟を覚えているかい?あのころ音楽・映画業界とわれわれは敵同士で、ディズニーの首脳が『Verizonはナチだ』と発言したんだよ」と笑った。「そのディズニーが今や当社の最大のパートナーだ。問題は訴訟ではなく、ビジネスなんだよ。訴訟を起こすのは弁護士ではなく顧客なんだから」。

VerizonはFiOS TVという光ファイバーの映像配信サービスを去年から始めたが、この業界では全米の視聴者の8割がケーブルテレビを見ており、ILECは挑戦者だ。ケーブルと同じ番組を流してもだめなので、ビデオ・オンデマンドやダウンロードなどのメニューを用意して、ロングテールの部分にコンテンツを広げようとしている。YouTubeは、そういうILECのねらいに合致したのだ。そしてハリウッドも、ケーブルより高画質で多くのチャンネルの流せる光ファイバーに商機を見出している。

「しかしYouTubeはハリウッドの敵になるのでは?」と聞くと、彼は「いや違う。ハリウッドにとって大事なのは、作品であってパイプではない。プロデューサーの評価は、一つの作品からいかに多くの収益を上げるかで決まるので、パイプはいくらあっても足りないのだ」という。「ケーブルはたかだか300チャンネルしかないが、インターネットには無限のチャンネルがある。ハリウッドはネットを選ぶだろう。彼らは強欲すぎてYouTubeを殺すことができないのだ(They are too greedy to kill YouTube)」。彼は具体的には語らなかったが、「コンテンツの送り手が合意すれば、著作権なんて障害ではない」と、ILECとハリウッドの間でP2Pのときのような「取引」が進行していることをにおわせた。

「通信と放送の融合」といえば、日本では地デジのIP再送信を認めるとか認めないとか石器時代みたいな話をしているが、アメリカでは「滅びゆく恐竜」とバカにされていたILECが、すっかりネット企業に変身しているのには驚いた。「象が踊れないと誰がいったのか」というのは、IBMを倒産の危機から救ったルイス・ガースナーの回顧録の原題だが、株式市場からプレッシャーをかけられると、恐竜も踊り始めるのがアメリカ資本主義のおもしろいところだ。