Bob Woodward

Simon & Schuster

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ご存じウッドワードのブッシュ政権3部作(?)の3冊目。当然ベストセラーの第1位を独走しているが、内容的には前作と重複が多く、あまり新味はない。日本人には大して興味のないホワイトハウスの楽屋話が多く、560ページは冗漫だ。扱っている時期は、最初の『ブッシュの戦争』と2冊目の『攻撃計画』を合わせたもので、ブッシュの選挙前の1997年から始まるが、最初の本では彼を持ち上げていたのに、本書では当初から無能な大統領だったという扱いになっている。

本書の主人公は、ブッシュというよりラムズフェルド国防長官である。彼がいかに傲慢で、部下にきらわれているかというディテールが繰り返し描かれる。彼は米軍がイラク国民に「解放者」として歓迎されると信じており、戦争終結後の占領統治については、何も考えていなかった。諜報部門から「大量破壊兵器は見つからない」という報告が上がっても、彼はそれを無視し、自分に反対する者を次々に国防総省から追放する。結局、彼に反対する者はいなくなり、政権全体が「裸の王様」になる。

これはベトナム戦争を描いたハルバースタムの古典『ベスト&ブライテスト』を思わせる。当時の主人公はマクナマラだが、彼は後年、回顧録で「ベトナム戦争は誤りだった」と総括する。著者がラムズフェルドへのインタビューで、マクナマラの「最高司令官は生命の犠牲をともなう過ちをおかすものだ」という言葉をどう思うかと質問すると、なんとラムズフェルドは「私は最高司令官ではない」と答える。

失敗の原因も、ベトナム戦争とよく似ている。戦争の指導者は、自分の望む情報を聞きたがるものだ。ベトナム戦争でも、現地から上がってくる勝利に次ぐ勝利の報告をワシントンは信じ、ベトコンの能力を過小評価して戦力を逐次投入した。またテクノロジーを過大評価して、味方の犠牲なしに敵を殲滅する「きれいな戦争」が可能だと信じる(ラムズフェルドのRMA)のも似ている。実際には、民間人と敵の区別もつかないゲリラ戦では、ハイテク兵器は役に立たない。

しかしアメリカ政府が、公式にはいまだにベトナム戦争を誤りだったと総括していないように、ブッシュ政権はイラク戦争の失敗を認めようとしない。これを著者は「否定状態」(state of denial)と呼ぶ。彼らがベトナムの失敗から何も学ばなかったのは、それを失敗と認めなかったからだ。過去について盲目な者は、同じ過ちを繰り返す。それは日本の過去の失敗を「国民の物語」として正当化しようとする人々と同じである。