今月はじめ、家電メーカー5社が共同で「テレビポータルサービス」(TVPS)という会社を設立し、テレビからネットワークに接続できるサービス「アクトビラ」を2007年2月から始めると発表した。総務省と経産省もこれを支援し、「PCではインテルとマイクロソフトに標準を握られたが、家電では日本メーカーが標準化すべきだ」などと表明している。しかし、今日のITmediaの記事を読んで驚いた。この「ネットワーク」はインターネットではなく、決められたサイトしか見えない閉域網(walled garden)なのだという。

この種のデータ放送サービスは、これまでにいくつもあった。今回とほぼ同じなのは、BSデジタルで行われた「イーピー」である。これも家電各社が共同でセットトップ・ボックス(STB)をつくり、BMLでテレビ局のサイトにつなぐものだったが、ユーザーが数万人にとどまり、2004年2月に解散した。アクトビラがイーピーと違うのは、インフラがダイヤルアップの代わりにブロードバンドになり、ようやくHTMLをサポートすることになったことぐらいだが、コンテンツにはTVPSの「審査」が必要になるなど、囲い込み志向は強まっている。

STBのビジネスはむずかしい。かつてテレビ局各社のやったデータ放送は全滅し、マイクロソフトのWebTVさえ撤退を強いられた。ソフトバンクのBBTVも事業を縮小し、NTT、KDDIや電力系などがやっているSTBビジネスも、黒字になったものは一つもない。まして最初からインターネットを拒否するアクトビラが成功する可能性は、万に一つもない。それは自業自得だが、問題はこれを行政が後押ししていることだ。マイクロソフトの向こうを張るつもりなら、せめて彼らの戦略に学んではどうか。

1980年代、IBM-PCがオープン・スタンダードで世界に広がったとき、日本のPCメーカーはPC-9800とそれ以外のコップの中の戦いを続け、業界全体が沈没した。携帯電話も同じだ。このように、ほどほどに大きい日本市場に安住して囲い込み競争を続けているうちに世界市場に取り残される現象を、海部美知さんは「パラダイス鎖国」と呼んでいる(先日は、同様の現象を指摘した私の3年前のコラムが、「はてなブックマーク」で100もリンクを集めて驚いた)。日本企業がITの世界でリーダーシップをとるには、まずこの「パラダイスぼけ」を直す必要がある。