Winnyの作者、金子勇氏が、きのうICPFセミナーで講演した。主な内容は、Winnyを初めとするP2Pネットワークの紹介と、彼がいま開発しているSkeedcastの説明だった。ちょうどTVバンクがP2Pでマルチキャストを始めたというニュースも出た。日本でもようやくP2Pの冬の時代が終わり、ビジネスとして認知されるようになったのだろう。
映像をネット配信する場合、加入者線の帯域だけみると、DSLで数十Mbpsあれば、DVD画質の映像(1.5Mbps程度)は十分送れるように思える。しかし実際には、回線費用やサーバの負担を考えると、そうは行かない。TVバンクの中川氏によれば、「通常のユニキャスト方式では100kビット/秒で100万ユーザー,1.5Mビット/秒だと1000ユーザーに同時に配信するのもコスト的に厳しい」。P2Pによって、トラフィックは78%削減できたという。
しかしP2Pのトラフィックが増えると、「インフラただ乗り」論で指弾されるように、P2Pが日本のインターネット全体の半分以上を占めるといった状態が生じる。これを解決する方法は、従量料金(パケット課金)しかないが、そうするとP2Pを使うことはむずかしくなる。ユーザーが使っていなくても、他人が自分のマシンからP2Pでダウンロードしたら、知らないうちに莫大な料金がかかる可能性があるからだ。金子氏は「従量制にしたら、P2Pは死ぬだろう」といっていた。
P2Pをただ乗りと呼ぶのは正しくない。インターネット全体をみると、ほとんどの資源は遊んでいるので、それをP2Pで活用することは効率的だ。つまり、ただ乗りは全体最適という観点からは望ましいのである。パケットに課金すると、使っていない資源の囲い込みが生じて、効率は低下する。この問題を解決するには、従量料金に一定のプライス・キャップを設けるとか、ISP間のピアリングで行われているように、トラフィックを精算して下りから上りを差し引いた分に課金するなどの工夫が必要だろう。
ただ、従量課金そのものがインターネットの発展を阻害するという意見も強い。今後のインターネットの進化の方向として、世界中のコンピュータを並列に結んで、すべてのユーザーが膨大な計算能力とデータベースをもつグリッド・コンピューティングが想定されているが、従量制になると、そういう進化は不可能になるだろう。従量課金はユーザーが資源の消費者だという前提にもとづいているが、実はインターネット・ユーザーはCPUやメモリなどの資源や消費者生成コンテンツの供給者でもあるのだ。
この種の問題のもっとも簡単な解決法は――可能であれば――消費される量を絶対的に上回る資源を用意して、自由に使うことだ。現実にLANではこういう資源管理が行われ、グリッドもローカルには実現しているし、テキストベースのウェブでは、資源に余裕がある。しかしストリーム情報になると、消費される帯域が桁違いに増えるため、このような解決法は困難だろう。あと10年もムーアの法則が続けば、こういう「桃源郷」によって問題が解決するかもしれないが・・・
追記:金子氏の講演資料をICPFのサイトで公開した。
映像をネット配信する場合、加入者線の帯域だけみると、DSLで数十Mbpsあれば、DVD画質の映像(1.5Mbps程度)は十分送れるように思える。しかし実際には、回線費用やサーバの負担を考えると、そうは行かない。TVバンクの中川氏によれば、「通常のユニキャスト方式では100kビット/秒で100万ユーザー,1.5Mビット/秒だと1000ユーザーに同時に配信するのもコスト的に厳しい」。P2Pによって、トラフィックは78%削減できたという。
しかしP2Pのトラフィックが増えると、「インフラただ乗り」論で指弾されるように、P2Pが日本のインターネット全体の半分以上を占めるといった状態が生じる。これを解決する方法は、従量料金(パケット課金)しかないが、そうするとP2Pを使うことはむずかしくなる。ユーザーが使っていなくても、他人が自分のマシンからP2Pでダウンロードしたら、知らないうちに莫大な料金がかかる可能性があるからだ。金子氏は「従量制にしたら、P2Pは死ぬだろう」といっていた。
P2Pをただ乗りと呼ぶのは正しくない。インターネット全体をみると、ほとんどの資源は遊んでいるので、それをP2Pで活用することは効率的だ。つまり、ただ乗りは全体最適という観点からは望ましいのである。パケットに課金すると、使っていない資源の囲い込みが生じて、効率は低下する。この問題を解決するには、従量料金に一定のプライス・キャップを設けるとか、ISP間のピアリングで行われているように、トラフィックを精算して下りから上りを差し引いた分に課金するなどの工夫が必要だろう。
ただ、従量課金そのものがインターネットの発展を阻害するという意見も強い。今後のインターネットの進化の方向として、世界中のコンピュータを並列に結んで、すべてのユーザーが膨大な計算能力とデータベースをもつグリッド・コンピューティングが想定されているが、従量制になると、そういう進化は不可能になるだろう。従量課金はユーザーが資源の消費者だという前提にもとづいているが、実はインターネット・ユーザーはCPUやメモリなどの資源や消費者生成コンテンツの供給者でもあるのだ。
この種の問題のもっとも簡単な解決法は――可能であれば――消費される量を絶対的に上回る資源を用意して、自由に使うことだ。現実にLANではこういう資源管理が行われ、グリッドもローカルには実現しているし、テキストベースのウェブでは、資源に余裕がある。しかしストリーム情報になると、消費される帯域が桁違いに増えるため、このような解決法は困難だろう。あと10年もムーアの法則が続けば、こういう「桃源郷」によって問題が解決するかもしれないが・・・
追記:金子氏の講演資料をICPFのサイトで公開した。
固定料金なら、HDDやメモリと同じように帯域はいくら増えてもあるだけ使われるかと。