![]() | The Theory of Corporate FinanceJean Tiroleこのアイテムの詳細を見る |
著者のもとで博士課程にいた研究者の話によると、著者は「普通の人の10倍のスピードで仕事をする」そうだ。もちろん質も高く、彼の書いた産業組織論の教科書やFudenbergと共著のゲーム理論の教科書は、いずれも古典である。本書も、企業金融や企業統治の教科書の世界標準となるだろう。まだ第1章「企業統治」しか読んでないが、最近の出来事と少し関連がありそうなので、紹介しておく(一部は版元のホームページからダウンロードできる)。
著者の立場は、いかにして企業価値を最大化し、それを株主に還元させるかという「狭い意味での企業統治」を論じるものである。「ステークホルダー」とか「社会的責任」などの問題は、契約や法で解決すべきで、企業経営にそういう色々な利害関係者を入れると、利益相反が生じやすい。
経営者のモラル・ハザードを防ぐには、ストック・オプションのような形で株主と経営者の利害を共通にする方法と、モニタリングを強化する方法がある。メディアは、企業買収や企業犯罪の摘発を大きく扱うが、こうしたカラフルな出来事が企業統治に果たす役割は、限られたものである。むしろ最終財市場がガバナンスに果たす役割が大きく、業績の悪化した企業の経営者が追放される率は、日米独の3ヶ国でほとんど変わらない。
Shleiferなどの行った企業統治についての一連の大規模な実証研究によれば、「直接金融」か「間接金融」かといった違いは企業統治の効率に無関係で、もっとも重要なのは投資家の保護である。しかし、SOX法のようにモニタリングを極端に厳格化し、しかも広い範囲に重い刑事罰を課す政策は、バランスを欠いた過剰規制になるおそれが強い。投資家保護が重要だというのは事実だが、それは特定の企業をスケープゴートにすることによって実現するものではない。
池田先生はご存知のことかと思いますが、念のため付記しておきたいと思います。シュライファー氏らの一連の研究は、学界でのコンセンサスになっていないと思います。すなわち、コモンローと経済発展の間に正の相関が見出せるからと言って、そのことは、コモンロー「だから」経済発展するとか、コモンロー「でないと」発展しないとかいった因果関係までを必ずしも示唆するものではないということです。シュライファー氏らの一連の研究のパロディーとして、コモンローとワールドカップでの順位に正の相関を見出した以下の研究があります(メールアドレスを登録しないとダウンロードできないと思いますが)。
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=318940
そこで、池田先生にお願いしたいのですが、同様のテーマをさらに進化させたものと思われる、最近のアセモグル氏とロビンソン氏の新刊(Economic Origins Of Dictatorship And Democracy: Economic And Political Origins,Oxford University Press)を、機会がありましたら、貴ブログでの記事か、週刊ダイヤモンドの「今週の一冊」で取り上げていただければ、幸いに存じます。ご多忙の中、恐縮ですが、よろしくご検討いただければと存じます。