きのう新聞協会は、新聞の「特殊指定」をめぐって「活字文化があぶない!~メディアの役割と責任」と題するシンポジウムを開いた。ところが、このシンポジウムには当の公取委はおろか、新聞協会の見解と違う意見の持ち主も出席していない。最初から特殊指定の見直し反対派だけを集めて、いったいどんな議論が行われたのだろうか。ライブドアの「パブリック・ジャーナリスト」小田記者によると、
「道路が裂かれても、体が凍えても、一軒一軒のポストに新聞を届ける人がいた」などと感情に訴えたり、中には、特殊指定撤廃があたかも新聞業界を殺すかのような報道もあった。こと「特殊指定」報道に関しては、新聞は理性を失っているとしか言いようがない。
このシンポジウムについて、中立的な立場から報じているメディアがライブドアしかないという事実が、日本の活字文化がいかに「あぶない」かを示している。

新聞記事には、そもそも特殊指定とはどういう規定で、公取委がなぜその見直しを検討しているのかという基本的な事実関係も書かれていない。特殊指定とは、「新聞社や販売店が地域・相手方により異なる定価を設定して販売すること等を禁止」しているだけで、それを廃止しても、定価販売がなくなるわけではない。公取委も指摘するように
新聞業界においては,新聞発行本社は販売地域内では一律の価格で再販制度を運用するとしており,また,今回の新聞特殊指定見直しの議論においても価格差を設けるべきでないとしていることから,少なくとも不当な価格を当該新聞発行本社自身が設けるということはそもそも存在し得ないはずである。
したがって特殊指定を廃止しても価格競争が始まるわけではないが、かりに競争が始まるとしても、
その結果,戸別配達網が崩壊するとする根拠は全く不明であり,当委員会として新聞業界に対し,新聞特殊指定により極めて強い規制を行う根拠とはし難い。[・・・]新聞特殊指定が制定される前から戸別配達は定着していたものであり,新聞特殊指定がなければ戸別配達が成り立たないという主張は極めて説得力に欠ける。
新聞各社が世論調査などで示しているように、新聞の宅配制度が圧倒的多数の国民に支持されているなら、それを法的に補強する必要もないだろう。まして特殊指定の廃止が「活字文化の危機」をもたらすというのは問題のすりかえであり、この両者にはいかなる因果関係もない。このようなバランスを欠いた報道をすべての新聞で繰り返し、地方議会まで動員して「見直し反対決議」を出させる新聞社の異常な行動こそ、冷静で客観的な活字文化の危機である。

追記:12日の朝日新聞で、2面ぶち抜きでこのシンポジウムが紹介されている。あきれたことに、出席者全員が「特殊指定の廃止→宅配制度の崩壊」という前提で「市場原理主義」を非難している。