偽メール騒動は、結局、民主党の執行部が総辞職するという最悪の結果になった。わからないのは、この程度の問題の処理に、なぜこんなに手間どり、ここまでダメージを拡大してしまったのかということだ。民主党のウェブサイトで民主党 「メール」問題検証チーム報告書が公開されているが、それを読むと、問題は永田氏個人にはとどまらず、執行部全体の情報管理の甘さにあるという印象が強い。

まず2月16日の質問の前に、問題のメールの真偽について永田氏は、西澤孝なる「情報仲介者」の話を鵜呑みにし、まったく裏を取っていない。ライブドアをやめて「大手企業の系列会社」に勤務しているという「情報提供者」の存在さえ、いまだに確認できていない。メールの真偽にかかわる情報を要求すると、西澤は「情報提供者がおびえている」「成田から高飛びしようとしている」などと漫画のようなストーリーで逃げるのに、それ以上追及しない。

西澤が業界で札つきの詐欺師だということは、少し調べればわかったはずだ(週刊誌は質問の翌週すぐ報じている)。彼は、民主党に持ち込む前に、このメールをいくつかのメディアに持ち込んだともいっているが、三文週刊誌でも、こんな紙切れ1枚で自民党幹事長の贈収賄を断定する記事を書いたりしない。名誉毀損で訴えられたら、抗弁できる証拠能力がないからだ。

永田氏や野田氏がメールを本物だと信じたのは、それがライブドア社内で使われているEudoraで書かれているというのが、ほとんど唯一の根拠だったらしい。ところが、それが社内で使われていたVer.6.2ではないことが(ブログなどで)判明してからは、バージョン番号だけが塗りつぶされたメールが出てきた。しかも、社員なら一度は受け取ったはずの堀江氏の普段のメールの特徴(署名など)さえまねていない。おそらく「情報提供者」なるものは存在せず、これは西澤の自作自演だろう。

さらに問題なのは、疑惑が生じてからの対応だ。永田氏の質問後、いろいろなバージョンの偽メールが出回り、21日には
原口予算委員は、国会内で、居合わせた「対策チーム」メンバーに、送信元(from)と送信先(to)が同一の「メール」のプリントアウトを見せた。「対策チーム」メンバーは、この「メール」について協議したが、真偽の判断には至らなかった。(報告書 p.24)
という。この「対策チーム」は、いったい何を協議したのだろうか。ToとFromが同一だということは、偽造したという明白な証拠である。それなのに、翌22日には、党首討論で前原代表が「確証がある」などといって、問題を党全体に広げてしまった。しかも永田氏を「入院」させたり、中途半端な処分(6ヶ月の党員資格停止)でお茶を濁したりして、決着を遅らせた。

私は、きのうニュースを聞いて「永田氏の議員辞職はともかく、前原代表まで辞任することはないのでは」と思ったが、この報告書を読むと、第一義的な責任は執行部にある。これはメディアでいえば、駆け出し記者の入手した怪文書を、デスクも部長も見た上で、裏もとらずに報道したようなもので、朝日新聞の「田中知事架空インタビュー事件」のように経営者が責任をとるべき事件である。

民主党の問題は、今回の事件がはしなくも明らかにしたように、個々の議員の「個人営業」になっていることだ。自民党が霞ヶ関という大シンクタンクをもっているのに対して、民主党にはこの程度の問題を処理するスタッフもいない。「対案路線」などと大言壮語する前に、政策立案や情報管理を担当する専門家を雇ってはどうか。