通信・放送懇談会の第5回会合では、NTTの再々編がまた話題になったようだが、意見の集約はできなかったらしい。先月のICPFシンポジウムでは、松原座長が「NTT各社を今のまま完全に資本分離するつもりはない」と断定したのだが、今回は完全分離せよという意見も出たようだ。

構造分離というのは、競争政策としては「伝家の宝刀」であり、成功例も少ない。米国で構造分離をやったのは、スタンダード石油とAT&Tぐらいだが、後者は20年後の今、元の形に戻りつつある。日本ではNTTの「準構造分離」が唯一のケースだが、これも失敗例だ。その原因は、第2臨調で議論を始めてから実際に分離が完了するまでに15年もかかり、その間に技術革新が進んでしまったためである。とくにNTTの場合は、インターネットが急速に普及する時期に電話時代の区分で分割するという最悪のタイミングだった。

今からやるなら、NTT法や放送法をいじるのではなく、懇談会でも出ているように、通信と放送を区別しない「融合法」にすべきだ。この場合の原則は、「水平分離」と「規制の最小化」である。前者はしばしば議論になるので、よく知られていると思うが、後者は構造分離のような「外科手術」ではなく、規制を物理層に限定することによって、企業が自発的に分離することをうながすものである。

たとえばNTTの場合には、山田肇氏と私の共同論文でも主張したように、規制の対象をローカルループ(銅線)と線路敷設権に限定し、それ以外の光ファイバーや通信サービスの規制を撤廃すれば、NTTがインフラを「0種会社」として分離するインセンティヴが生じる。この場合の分離は、子会社であっても法人格が別であればよい。

NHKも同じである。規制を電波(物理層)だけに限定すれば、NHKはインフラを(BBCのように)民間に売却してリースバックし、制作部門だけをもつ「委託放送事業者」になることができる。これによってNHKは免許も不要になり、コンテンツをインターネットやCSなど自由に多メディア展開でき、首相の求める「海外発信」も可能になるかもしれない。今でもBSは事実上の委託/受託になっているので、これは見かけほど大きな変化ではない。

このようにボトルネックとなっている共有資源を、Benklerにならって「コア・コモンズ」とよぶとすれば、通信・放送ともに規制をコア・コモンズに最小化して開放することによって、自由なサービスや新規参入が可能になる。問題は、NTTもNHKも実は自由を求めていないことだが、これは新しいプレイヤーとの競争に期待するしかないだろう。

追記:NHKの橋本会長が、衆議院総務委員会に参考人として出席し、国際放送について発言した。首相が個別の問題に思いつきで口を出すと、こういうふうに枝葉の問題ばかり話題になる。よく知らない分野については「丸投げ」したほうがよい。