日歯連のスキャンダルは、実は政策のゆがみの典型ではない。こういうふうに現金が渡る事件は摘発しやすいので目立つが、大部分の問題はこんなわかりやすい形では起きない。

もっとも多いのは、業者が規制当局に入り込んで影響を及ぼすケースだ。金融行政で問題になった「MOF担」がその典型だが、業者が官僚や政治家に情報を提供する代わりに政策を自分に有利な方向に誘導する現象は、世界共通にみられる。政治家もキャリア官僚も「ジェネラリスト」で、個別の業界事情はよく知らないから、具体的な法案を作る作業は、業界団体やロビイストの助けを借りないとできないのが実態なのだ。

金融やITなど、高度な専門知識を必要とする業界ほど、こうした"regulatory capture"は重症になる。かつては銀行行政に関する法案は、興銀の総合企画部が起草したといわれるほど「丸投げ」だった。興銀からは同期のトップが大蔵省(当時)に「天上がり」し、官民一体で政策が作られた。私の大学時代の同期で大蔵省に入省した女性キャリアは、天上がりした興銀マンと結婚した。

「ITゼネコン」が「ご当局」に影響を及ぼす方法も同じだ。あるITゼネコンの幹部は「キャリアのみなさんは2年ぐらいで部署が変わるので、われわれがご進講せざるをえない」といっていた。こういうバイアスのかかった情報提供(soft money)は、現金よりもはるかに有害で、駆除しにくい。抜本的な解決策は、政府が経済活動に関与する領域を減らすしかないのである。