世の中で、いかにもテレビ業界用語のように使われているが、実際にはテレビ局で使われていない言葉は、けっこうある。「やらせ」もその一つだ。これは新聞のつくった言葉で、テレビ局では使わない。

あるものだけ撮っても絵にはならないので、何らかの意味での「やらせ」なしには、ドキュメンタリーは成り立たない。「新日本紀行」などは、今の基準でいえば、最初から最後まで「やらせ」である。「やらせだ」と批判されて会長が謝罪する騒ぎになったNHKスペシャル「ムスタン」のディレクターは、最後まで辞めなかった。査問する管理職に「あれで辞めるなら、あなたの作った昔の番組はどうなのか」と開き直ると、だれも答えられなかったという。

もう時効かもしれないからいうと、芸術祭大賞をとったNHKスペシャル「私は日本のスパイだった」で、スパイだったと自称するベラスコというスペイン人も、実在したかどうかあやしい(スペイン人を使った諜報組織があったことは事実らしいが)。民放から「ドラマにしたいので連絡先を教えてほしい」という申し入れがあったが、「取材源の秘匿」を理由にして断った。画面で顔も名前も出しているのに、何を秘匿するんだろうか。