社会保険庁バッシングも盛んである。問題の最大の原因は、自治体の社会保険事務を行う公務員を「地方事務官」という国家公務員と地方公務員の中間の変な形にしたため、「国費評議会」という自治体労組の全国組織ができ、合理化に反対したり高賃金を要求したりするのを放置してきたことにあるといわれる。

これは社保庁だけの問題ではない。昔の国鉄や電電公社(今のJRやNTTにもその名残りは強く残っている)、あるいは今の郵政のように、国営で現業職員の多い組織では、労務が出世の本流で、組合と「腹を割って」話ができることが経営者の必要条件だ。こういう組織では、独占でキャッシュフローが安定しているので、問題はその分け前の交渉だけだからである。

似たような現象は、1970年代の米国でもみられ、経営者によるキャッシュフローの無駄づかいで破綻するコングロマリットが続出した。これをマイケル・ジェンセンは、プリンシパル(株主)を無視してエージェント(経営者)がempire buildingを行う「エージェンシー問題」だとしたが、日本ではトラブルを避け、「身内で仲よく」という方向に流れる傾向が強い。

こういう状態を、山本七平は「自転する組織」と呼んだ。組織が目的を見失って自転し始めると、帝国陸軍のように組織全体が壊滅するまで止まらないことが多い。それを外部からチェックするのが銀行や官庁の役割だが、そこにもエージェンシー問題(癒着)が起こらないという保証はない。最後は、情報を公開して消費者(納税者)がチェックするしかない。究極のガバナンス装置は、市場なのである。